社員のミスは授業料 近藤宣之会長
1944年生まれ。大学卒業後、日本電子入社。94年子会社の日本レーザー社長に就任

権限を委譲しようと思ったきっかけは何ですか。

近藤:当社はレーザー機器の輸入専門商社です。14カ国100社の合計何十万点という製品を取り扱っています。そんな数の製品を社長1人で売り込むことは到底できません。

 加えて、この業界では珍しくないのですが、取引先の事情で契約を打ち切られることが多々あります。私が社長になって24年、その間に27社に取引を打ち切られています。1年で4、5億円の売り上げが飛んだこともありました。その分を新しい取引で補填するのは社長だけでは不可能。社員の力が必要なのです。

 私は中学生のときから『資本論』『共産党宣言』を愛読し、高校生のときは毎日デモに参加していました。日本電子時代、労働組合執行委員長を務めていたとき会社が経営危機に陥り、大勢の社員をリストラした。このときの経験が私の原点です。

 雇用を守れない企業は社会的に存在意義がない。そう今でも思っています。雇用を守るには、儲けなければいけない。そのためには権限委譲が必要なんです。

「儲けて社員に報いたい」と話す経営者がいますが、おかしな話です。こういう経営者の本音は、利益を上げて、株価を上げて、企業価値を高めて、自分がいい思いをしたいのではないでしょうか。でもワンマン経営だとやりきれなくなるから、手段として社員のモチベーションを上げようとする。

 逆なんですよ。人を雇用すること、人に喜びを与えること、人を幸せにすることが目的としてまずあって、その手段として利益が必要なんです。

 人を雇用することに加え、もう1つの企業の目的は、社員が仕事を通じて成長することです。だから企業は社員にそうした機会やチャンスを与えなければならない。権限委譲もその一環といえます。

任せた後、自分でやったほうが早いなど、イライラしたことはありますか。

近藤:イライラはしません。権限を委譲すると、スピードは非常に上がりますから。ただミスもあります。でもそれで社員を叱責することはしません。これも授業料だと思えばいい。人の成長に必要なコストです。実際、社員のモチベーションは上がり、結果として早く育ちます。

 よく優秀な社員ばかりだからできるのだろうと言われますが、とんでもありません。うちはもともと経営破綻しかけた会社です。当時はひどい社員ばかりでした。それでも、社員を大切にする経営をすれば変わるんですよ。

(この記事は、「日経トップリーダー」2018年7月号に掲載した記事を再編集したものです)