問題は町田では温泉が出ないこと。高橋はこのハードルを奇想天外な発想で乗り越えてみせた。大型トレーラーで温泉地の湯河原から湯を運ぶことにしたのだ。
ヒントは歴史にあった。江戸時代、熱海や湯河原温泉の湯を樽で運んで江戸の将軍家に献上した史実がある。それを現代風にアレンジすれば、実現できると考えた。
実は源泉から湯を運ぶ方法に関して、当初は全く関係ないように見えたDPE事業のノウハウを応用したのも、高橋の発想力だ。
それは湯の交換。衛生面を考慮して1日数回、交換することにしたものの、コストや顧客満足を考えれば、いかに短時間で済ませるかが課題となった。
ここで写真の現像プロセスが生きた。現像では、タンクに入れた湯に薬液を入れて攪拌(かくはん)し、終わると液体を別の容器に移動。一度タンクを洗って別の薬液で同じ作業をする。この作業で培った短時間で湯の交換を済ませるノウハウを応用したのだ。
ライバルの「いいとこ取り」
とはいえ、都内には旅館以外にも既存の健康ランドや銭湯といった競合がある。それらに勝つにはどうするか。高橋が編み出したのは、ライバルの長所と短所をすべて書き出した上で、「いいとこ取り」をするという方法だ。
具体的には、縦軸に競合施設にある機能・サービス、横軸に施設類型を取り、各施設がどんな機能・サービスを備えているかを調べた一覧表を作成。極力、多くのサービスを提供できるようにした。
こうすれば、健康ランドなどより5割ほど高い2300円に入館料を設定しても、顧客を十分引き付けられると踏んだ。
財務面の見通しも明確にした。「先行投資回収の収支シミュレーションや競合との比較表を含めた事業計画書を整え、メーンバンクに持参して新規事業を説明したら、太鼓判を押された」という。
大胆な着想の裏に緻密な準備があった中で温浴事業を始めた高橋。だからこそ、結果は吉と出た。
高級旅館のような設(しつら)えで、豊富な種類の風呂や飲食店、子供向けゲームコーナーなど多くの機能を備えた温浴施設1号店「東京・湯河原温泉 万葉の湯」は、97年のオープン当初から大人気となった。
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