97年に子会社の万葉倶楽部で、都市型温浴施設の運営を開始。2009年、経営陣による買収で日本ジャンボーは上場を廃止。現在は万葉倶楽部が親会社、日本ジャンボーが子会社となっている。17年9月期の売上高約221億円のうち、8割が温浴施設事業。写真は2005年にオープンした「横浜みなとみらい万葉倶楽部」
97年に子会社の万葉倶楽部で、都市型温浴施設の運営を開始。2009年、経営陣による買収で日本ジャンボーは上場を廃止。現在は万葉倶楽部が親会社、日本ジャンボーが子会社となっている。17年9月期の売上高約221億円のうち、8割が温浴施設事業。写真は2005年にオープンした「横浜みなとみらい万葉倶楽部」

 とはいえ、一見すると温浴事業はあまりに畑が違うように思える。しかし、高橋はこう反論する。

 「DPE事業も温浴事業もサービス業としては同じ。お客様をもてなすことは変わらない。それに、本当に新しい事業を始めるなら、過去のデータはさほど関係ない。最後は『いいかげんさ』が必要だ」

 この発言の真意を汲(く)み取るには、少し解説が必要だ。額面通り受け取ると、豪放磊落(ごうほうらいらく)な性格に見える高橋が、勢いに任せて、そのまま温浴事業に踏み切ったように思える。しかし、実際には周到に準備した上で事業を始めた。

 失敗確率を極限まで低くしておき、最後はトップ自身が勇気を持って一歩を踏み出す。その前向きさが必要というわけだ。

 温浴事業に着目したのは、実は自身が静岡県熱海市の出身であることが関係している。

 日本ジャンボーを立ち上げる前、高橋は家業の酒販店を手伝っていた。並行して酒の搬入先である温泉旅館で、趣味の域を超えて宿泊客向けの写真撮影サービスを手掛けるようにもなった。その経験から、顧客が癒しを求めて温泉に来るということが分かっていた。

 しかも90年代半ばに静岡県伊豆市でオープンした、日帰り温泉施設が人気を集めているという情報も耳にしていた。そうした背景から、温浴事業に可能性を見いだしたのだ。当時、東京都町田市に自社の土地があったため、そこを生かすことにした。

徹底的な競合分析

 新規事業を始めるには、入念に競合を分析し、ライバルをしのぐ特長を持たせる必要がある。高橋はこれを徹底的に実施した。

 まずライバルの筆頭に挙がるのは、温泉地にある旅館。高橋はコストに目を付けた。

 当時、東京から熱海など近場の温泉地に行くには、新幹線で往復1人約8000円かかった。これに対し、家族4人が自家用車で来て、1日過ごして1万円で収まる価格、つまり、1人2500円弱で楽しめる温浴施設を都内につくれば、価格訴求力があると見た。

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