
とはいえ、一見すると温浴事業はあまりに畑が違うように思える。しかし、高橋はこう反論する。
「DPE事業も温浴事業もサービス業としては同じ。お客様をもてなすことは変わらない。それに、本当に新しい事業を始めるなら、過去のデータはさほど関係ない。最後は『いいかげんさ』が必要だ」
この発言の真意を汲(く)み取るには、少し解説が必要だ。額面通り受け取ると、豪放磊落(ごうほうらいらく)な性格に見える高橋が、勢いに任せて、そのまま温浴事業に踏み切ったように思える。しかし、実際には周到に準備した上で事業を始めた。
失敗確率を極限まで低くしておき、最後はトップ自身が勇気を持って一歩を踏み出す。その前向きさが必要というわけだ。
温浴事業に着目したのは、実は自身が静岡県熱海市の出身であることが関係している。
日本ジャンボーを立ち上げる前、高橋は家業の酒販店を手伝っていた。並行して酒の搬入先である温泉旅館で、趣味の域を超えて宿泊客向けの写真撮影サービスを手掛けるようにもなった。その経験から、顧客が癒しを求めて温泉に来るということが分かっていた。
しかも90年代半ばに静岡県伊豆市でオープンした、日帰り温泉施設が人気を集めているという情報も耳にしていた。そうした背景から、温浴事業に可能性を見いだしたのだ。当時、東京都町田市に自社の土地があったため、そこを生かすことにした。
徹底的な競合分析
新規事業を始めるには、入念に競合を分析し、ライバルをしのぐ特長を持たせる必要がある。高橋はこれを徹底的に実施した。
まずライバルの筆頭に挙がるのは、温泉地にある旅館。高橋はコストに目を付けた。
当時、東京から熱海など近場の温泉地に行くには、新幹線で往復1人約8000円かかった。これに対し、家族4人が自家用車で来て、1日過ごして1万円で収まる価格、つまり、1人2500円弱で楽しめる温浴施設を都内につくれば、価格訴求力があると見た。
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