「乗り方が悪い! 降りろ!」と怒鳴る運転手

 今では信じられないでしょうが、昔のタクシー運転手は最悪でした。格好はランニングシャツに腹巻、すててこ、雪駄。お客様に挨拶もしなければ、行き先も聞かない。道が悪く、お客様が天井に頭をぶつけると、「乗り方が悪い! 降りろ!」と怒鳴る。一体、どっちがお客様か分からない。しかし、それが業界の常識でした。
 こんな有り様でしたから、もう教育どころではありませんでした。

 私は、1960年(昭和35年)、エムケイの前身であるミナミタクシーを設立しました。当時はマイカーが少なく、タクシー会社も少ない。タクシーはすごく儲かる商売でした。それで飛び込みました。

 運輸省から認可を受け、10台のタクシーを揃えました。そして、運転手を24人雇った。当時は就職難、200人もの応募がありました。その中から、ペーパー試験や実地試験で24人を厳選したんです。

 よし、これでスタートや。しかし、実際に営業を始めてみたら、いやー、びっくりしましたよ。

 無断欠勤、遅刻、早退が横行していたんです。朝、会社に行ったら運転手が来ていない。運転手が来なければ、車は動かない。タクシーは一人で2台動かすわけにはいかないんですから、これじゃ、売り上げが出ない。

 「ほー、これはえらいこっちゃ!」

 普通の常識だったら、休む時は前もって言いますやん。それが、当日にならないと、来るか来ないか分からないんですよ。

 そこで、運転手を全員集めて言いました。

「皆さん、欠勤、遅刻、早退は認めます。その代わり、前もって連絡してください」

何という商売ですねん!

 それでも、なかなか聞いてくれなかった。
 困り果てて、同業の先輩に相談しました。なんて言ったと思いますか?

「青木君、それは直らへん。業界の常識や。24人必要なら、30人以上雇いなさい。そして、早く来た人から乗せる。後から来た人は、車がないから乗せんでいい。賃金も払わんでいい」

 何という商売ですねん! 私は本当にショックでした。

 「こんないい加減な労務管理では、将来性がない。タクシーが、市民の足を守るという公共性を帯びているなら、労務管理が近代的じゃなくてはあかん。非近代的な労務管理では、企業は成長せえへん」

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