ただ、本当のことを言うと、07年のピーク時の少し前あたりから、自分たちの採用ノウハウが本来の価値以上に評価されていると自覚していたんです。「売り方の工夫が得意なだけで、儲かりすぎだ。このまま売れ続けるはずがない」と分かっていました。自分自身と社員の実力を両方知っているのは社長である私だけ。やっぱり社長じゃないと気付かない部分がある。

 とはいえ、さすがにそんなことを社員には言えませんし、当面は儲かっているので、「とりあえず、まあいいか。飲んで忘れよう」と見ないようにしていました。本来であれば、この段階で採用ノウハウの商品力をブラッシュアップして、誰もまねできないレベルにまで引き上げるべきだったと思います。

 もちろん、何も手を打たなかったわけではありません。主力の採用コンサルティング事業の賞味期限があることを見越して、企業のブランディング事業を立ち上げていました。しかし、こちらは主力事業より守備範囲が広いサービスなので手間もかかるし、高い品質を顧客から求められました。そのため、なかなか利益が出なかった。

 そうすると当然、主力事業を担当しているメンバーから不満が出ます。「何で俺たちが稼いだ利益を新規事業のメンバーが使っているのか」となる。それでも、6、7億円くらいにまで最終的には拡大したのですが、その事業の利益だけでは、主力事業の利益率の悪化を支えきれませんでした。

「いい会社だね」と言ってもらい喜んでいた

 もともと起業家志向はそんなに強いほうでありませんでした。むしろ、自由志向が強い。人に指図されずに仕事をするにはどうしたらいいかと考えた結果、自分で社長をやるしかなかったという感じですね。

 自分としては、雇う側と雇われる側の垣根がない関係の会社をつくりたかった。だから、社員に高い給料を払って、みんなで社内のバーで飲んだりして「いい会社だね」と言ってもらうことで喜んでいた。顧客の満足度を高めるという「外向き」よりも、「内向き」の考えが強かったですね。でも、社員数が200人を超えてくると、フラットな関係を維持するのが物理的に難しくなりました。そこはなかなかしんどかったですね。

 私自身、売るのは得意ですが、やっぱり長い目で見ると、自分が提供するサービスの価値を感じてもらって対価をもらうことで、顧客と長い信頼関係を築く。それが本来の事業のあり方です。後半の人生はそちらに力を入れたいと考えて、今の会社を立ち上げました。

 社員とフラットな関係でいたいという会社という気持ちは今も変わっていません。だから、組織上、一応社長という立場を取っていますが、社員は1人しかいないし、プロジェクトごとにチームを組み、その中の一員として業務委託契約の形で私も入っています。社長業より現場の仕事をしたいんですよ。

(構成:久保俊介、編集:日経トップリーダー

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