パート社員の神経を逆なでしていませんか?
「おばさんには何を言ってもいい」と思う上司が多すぎる
多くの中小企業の社長が頭を抱えている問題が人手不足。大事な戦力であるにもかかわらず、パートの本音を知らない社長は多い。しかし、社長の考え方次第で、パートのモチベーションはぐっと高まる。パート100人に聞いた「やる気になる言葉」を紹介しながら、パートが働きやすい職場について具体的に考える。
群協製作所ではL字型オフィスの角に社長席と打ち合わせ席がある。どちらも立ち席で周囲がよく見え、遠山社長(左)は社員の働きぶりに気を配る(写真:新関雅士)
正社員だけでは人手が足りず、パート社員(以下パート)をフル活用しなければ、仕事は回らない。そんな企業も多いだろう。
しかし、どうすればパートがやる気になるのかを理解しておらず、間違った接し方でパートの神経を逆なでする社長もいる。パートのモチベーションは時給額で決まり、時給さえ適当に上げておけばパートは働いてくれると誤解していないか。
「日経トップリーダー」では、あるパートに取材した。その話を聞くと、いかに会社の理解が足りないかが分かり、ちょっとした声のかけ方でやる気が高まることに気付く。では、パートの話に耳を傾けてみよう。
私たちと一緒に仕事をする社長の息子(専務)はひどい。同じ職場なのに、私たちパートへの挨拶がありません。朝礼で現場への注意をするとき、専務はガムを噛みながら話すことさえある。その態度だけで話を聞く気が無くなります。上から目線で頭ごなしに言われても全くやる気になりません。
しかも、ネチネチといつも同じことばかり繰り返す。「おばさんだから何を言ってもいい」と思っているのかもしれないですが、私だって傷つきます。こちらも自分なりに考えて動こうとしているのに、事細かに指示してきたり、無闇に急かされたりすると、子供ではないが「今やろうと思っていたのに」と思います。
あるとき、専務がいつの間にか背後にいてストップウオッチで作業時間を計っていたこともあります。パートを作業する機械のように思っているのではないでしょうか。私たちにだって感情があるんです……。
前のパート先をやめたのはベテランのパートリーダーが怖かったから。今の職場にも同じような人がいて困ります。いつもイライラしていて、新人さんなどを集中攻撃して怒るのです。他はいい人たちばかりですが、この人のために職場の雰囲気は悪いですね。
その一方で、社長は優しいです。事務所に入ってくるときは「お疲れ様です。いつもありがとうございます」ときちんと挨拶してくれる。それだけで気分が良くなります。ちょっとしたお菓子をたまに持ってきてくれるのも、私たちにも気を遣ってくれていると分かってうれしい。
仕事中は「すごいね」「よくこれだけの数できるね」と言われると、自分が評価されていることが分かって、やる気が湧きます。
話に出てきた会社の専務のような態度になってしまうのは、パートをただの駒としてしか見ていないからだろう。これではパートの能力を引き出すことはおぼつかない。次のページで紹介する全国のパート100人の言葉にあるように、パートの気持ちを考えて声をかけることが、やる気を高めるためには効果的だと分かる。
パート社員100人が明かす、やる気になる言葉
Q:職場の管理者からどんな言葉をかけられた(聞いた)とき、モチベーションが高まりましたか?
A:
- 頑張った仕事に対し「おっ、いいね!」「頑張っているね」とすぐ声をかけてくれた(49歳、ホームセンター)
- 「あなたの仕事が一番だよ」と言われたとき(50歳、衣料小売り)
- 真面目で仕事が早いですね(53歳、スーパー)
- 接客がとてもよいですね(36歳、コンビニエンスストア)
- お客様を待たせず、スムーズに仕事ができているよ(45歳、飲食店)
- あなたの意見をとても参考にしているよ(49歳、学校職員)
- これは、君にしか頼めないんです(39歳、福祉関連)
- あなたが休むと大変なんですよ(48歳、医療関連)
- 頑張れば、来年は賃金を上げるから(39歳、百貨店)
- いつもご苦労様、これからも長く勤めてほしい(64歳、現場作業)
- いつも丁寧に仕事をしていただきありがとうございます(43歳、メディア関連)
- 失敗したとき「誰でも失敗はある。やればできる」と励ましてくれた(47歳、衣料小売り)
- 正社員になりませんか?(49歳、福祉関連)
【アンケートの概要】 全国のパート社員(学生を除く)100人に、3月8日~10日、インターネットによる調査を実施した。市場調査会社エコンテのサービスを利用した。
成長をまめに評価する仕組み
人手不足を乗り越えるために、パートとうまく接し、実力を引き出すにはどうすべきか。そのノウハウを具体的に探っていこう。
パートのモチベーションを高める基本は、成長を認めること。その上で、実際に評価していることを昇給などにより目に見える形で示すことが重要となる。
それを実現する人事評価制度を広めているのが、コンサルティング会社、ENTOENTO(東京都昭島市)の松本順市代表だ。
松本代表は学生時代にアルバイトしていた鮮魚店に入社し、当時の社長の参謀として、やる気がなかった社員たちのモチベーションを高める改革に貢献。その経験を生かして独立し、やる気を引き出す人事制度づくりに取り組む。
「松本式」人事評価のポイントは、成果ではなく、成長を褒めて評価すること。このため、正社員と同等に働きたいパートに加え、成果は意識せずマイペースで働きたい人のやる気向上にも有効だ。
松本式の人事評価を取り入れ、パートのモチベーションを高めている会社の一つが、群馬県高崎市にある群協製作所だ。1963年創業で、正社員28人、パート16人が働く。レーザー光で材料を切るレーザー加工機に取り付けるノズルが売り上げの7割を占める。
女性社員が電話営業の要
ノズルの受注に大きな役割を果たすのが、多くのパートを含む女性社員による電話営業だ。
営業では、まず遠山昇社長や弟の雄彦専務がレーザー加工機のある工場をネット検索で探し、飛び込み訪問する。
その後、実際の注文を取るのが電話営業の女性社員だ。社長らが訪れた企業に電話し「社長がお渡ししたサンプルの具合はいかがですか。よろしければ、見積もりはいかがでしょうか」などとフォローをかけ、受注の獲得につなげている。
社長が訪問した企業にパート社員を含む女性社員が電話営業をかける(写真:新関雅士)
訪問先の社長や工場長は男性が多い。女性が電話するほうが受けがよく、話を聞いてもらいやすいという。遠山社長はパートを含む女性社員に対し「無理に営業しなくていい。相手と仲良くなり、自慢話をしてもらえるくらいの関係になることがまず重要だ」と教えている。親しくなれば、ノズルの寿命が来る頃に「そろそろいかがですか」と電話すると、大抵は受注ができるという。
遠山社長は「自社の売り上げを実際に確保しているのは電話営業の女性社員だ」と目を細める。パートは正社員と分け隔てなく働く。そして、優秀なパートは、積極的に正社員にしている。
成長の目標を「見える化」する
この遠山社長が導入しているパートの成長を可視化する仕組みが、松本式人事評価の特徴である「成長シート」だ。
電話営業を担当する正社員、パートの人事評価に用いる「成長シート」。遠山社長が理想と考える社員像を基に、15項目の「成長要素」を5点満点で評価する
社内には職種に応じてこうした成長シートが数種類あり、図に示した電話営業用は正社員、パートとも内容は共通だ。電話営業の担当者が備えるべき15の要素について、理想的な状態を5点満点とする5段階で成長度を評価する。
重要な要素はウエートを高め、成長シート全体で「成長点数」が100点になるように調整している。その成長点数で評価し、S、A、B、C、Dのランクに分ける。これを時給テーブルに当てはめ、時給に連動させている。
15の要素のうち、「売り上げ」といった「成果」を評価するのは全体の1割。成果の実現に必要な「重要業務」「知識・技術」「勤務態度」の成長を主に評価する。
例えば、「重要業務」の「電話作業」では「とても効率的に電話活動ができている」が4点、「その効率的な電話法を周囲に教えられている」と5点になる。
「教える」と高く評価
成長シートによる評価の特徴として、最高評価の5点を取るには、技術や知識などを「他の人にも教えている」ことが必要な点がある。この評価により、新たな技術や知識を覚えたパートは、それを進んで周囲に教えるようになる。
この成長シートや時給テーブルのフォーマットは社内の食堂に置き、いつでも見られるようにしている。このため、社員は、遠山社長が自分たちをどのような基準で評価しているかがよく分かる。
遠山社長が評価の基準を明らかにしているので、「同じ仕事をしているのに、どうしてあの人は私より時給が高いのか」といった不満をパートが持つことを防げる。
遠山社長は、この成長シートを面談にも用いる。「お客様との話し方がうまくなりました。もう少し頑張ると会話力は4になります」などと褒めて成長を促す。成長の基準が明確になっているので、成長点数が1つ上がるごとに「頑張りましたね」と褒められる。仕事を覚え始めた段階から、上達するまで何度も褒める機会を設け、パートのやる気を高く維持し続けている。
会議中も社員の様子を見る
褒めるきっかけを逃さないよう、各パートの働きぶりに細かく目を配る。遠山社長の自席と打ち合わせスペースは、同じフロアにいる社員やパートの席を見渡せる場所に設けている(記事冒頭の写真)。椅子がない立ち席で、仕事中も職場の様子が目に入るようにしている。
パートは、社長が自分たちを気にかけていることを実感し、さらに頑張ろうと意識する。
この群協製作所も、以前はパート3人を採用すると2人が辞めるような状態だった。パートが辞めてしまうと、遠山社長自ら電話に出たり、部品加工をしたりしていた。しかし、それを続けていてはいつまでも新規営業ができず会社が伸びないと気づき、「パートが定着するには、自分が変わるしかない」(遠山社長)と発想を転換。評価制度などの仕組みを整えた。2012年には、それまでの経験を基に、自分への戒めとして「パートの雇用方針7カ条」を作成した。定期的に見返し、パートが働きやすい会社であり続けているかを確認する。
群協製作所の「パートの雇用方針7カ条」
- 使い捨ての固定観念を捨てよ。パートが辞める一番の原因
- 子供優先。仕事は2番
- (パートを)ほったらかしにしない
- 自主性を重んじる。休みも自主的に取る
- 残業は経営者の責任と心得る。残業するような仕事は取ってこないこと
- 目標はすぐそこ。正社員を目指せ
- パートの可能性を信じよう。1人の知識より10人の共有化
多能工化で休みやすく
7カ条の最後の項目にある「共有化」とは互いに教え合い、多能工化を目指すことを意味する。
一般に、ベテランのパートは若手に厳しく当たりがち。群協製作所では、教え合うことを高く評価するため、若手が先輩に相談しやすい。冒頭で紹介したパートが語るように、パートが辞めるきっかけになりやすい「職場の人間関係」の改善にも評価制度が効果を上げる。
また、互いに教え合うことは、「休みの取りやすさ」も改善する。
技術や電話営業のコツは共有し、取引先ごとの受注履歴も社内システムで参照できる。このため、パートは周囲に気兼ねせず休める。
パートから正社員になった電話営業の大塚恵子さんは「3、4日続けて休みが取れるので、旅行などにも行きやすい。余暇が充実すると、また頑張ろうという気持ちになる」と話す。
残業が月平均0.7時間程度と短いことも特色だ。子育てや介護で勤務時間が限られるパートにも居心地がよい職場になる。
まれに「今日はあと2時間残業しないと終わらない」という状況になった場合は、仕事の進め方を全面的に見直す。生産の遅さが原因なら設備を更新し、業務量の増加が理由ならその事業が成長する兆しと見て、先行投資としてパートの追加採用を検討する。
群協製作所の例が示す通り、社長の考え方次第で、パートのモチベーションはぐっと高まる。今すぐ、あなたの会社でも見直しを始めてはいかがだろうか。
(この記事は「日経トップリーダー」4月号に掲載した「シリーズ 打倒! 人手不足(1)パートはどこでやる気になる?」を再編集したものです)
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