「今日のファイターズはボロ負けだったけれど、あの4番バッターはピッチャーゴロでも脱兎のごとくファーストに駆け込んでいた。いや、4番だけじゃない。皆そうだった。なんかちょっと感動しちゃったよ。またいつか球場に来たいな──」

2007年の日本シリーズで、白井氏に話しかけるヒルマン監督(写真:共同通信社)
2007年の日本シリーズで、白井氏に話しかけるヒルマン監督(写真:共同通信社)

 諦めずに全力を尽くす姿は、見る人に感動を与えます。私たちは、全試合に勝つことはできないが、全試合でファンの心に何かを残すことはできる。そうしてファンを増やせば、自分の給料だけでなく、個人成績も伸びてきます。

 なぜなら、ファンのために頑張ろうと思うと、練習でも気を抜かなくなるからです。自分のために頑張るより、家族のため、人のため、社会のために頑張ると、より高いモチベーションを保てますよね。

 また、全力でプレーすれば「このチームは皆、凡ゴロでも最後まで諦めずにダッシュするから、やりにくいなあ」と相手チームにプレッシャーを与えます。すると、勝つ可能性が高まる。勝てば、次も頑張ろうと意欲が高まり、チームが勝つための技術、戦術がさらに身に付きます。

 つまり、ファンに感動を与えたいという思いが、チームの勝利への近道となり、さらには個人のレベルアップももたらす。それぞれが密接につながっていることを、具体例を出しながら、新人にありありとイメージさせるのです。その上で「あなたは自分のために努力する選手になりますか。チームのために全力を尽くす選手になりますか」と問い、自ら選択させます。

 人間は基本的に、自分に価値があると感じたことしか頑張らない。だから、個人の価値につなげる作業が大切です。ファンのために頑張ろうと指導者はよく言いますが、なぜファンのために頑張るのか、頑張った先に何が起きるのか。それを新人のときから突き詰めて考えてもらうのです。

やらされている感をなくす

チームの勝利が自分の成長につながると理解できれば、個人もチームも強くなる。

白井:会社も同じですよね。会社の目標を社員がどこまで自分ごととして考えているか。「働かされている」「働いてあげている」という意識では、モチベーションは上がりません。会社の目標を達成すると、自分にどういう価値がもたらされるのか。そこが明確に示されれば、会社の目標と自分の目標が切り離せないものだと分かる。

 会社の目標を達成しようと前向きに努力すると、自分自身が成長し、周りの評価が良くなり、より大きな仕事ができます。「自分のためだけに働く人生と、会社の成長を通じて自分が成長する人生と、どちらを選びますか」。新人にそう問いかけ、自分自身で働き方を選択してもらうと、会社から「やらされている感」がなくなるはずです。

そうした教育は、新人のときにするのが効果的ですか。

白井:選手はいろいろな環境で育ち、さまざまな価値観を持って、プロに入ってきます。ただ、入団直後は皆、プロとしての考え方はゼロベース。そのときだから、正しい価値観を持ってもらうことができるのです。入団したばかりの新人にしっかり教育すれば、いずれ1軍でレギュラーを張るようになっても価値観は変わりません。

 入団以降、フォア・ザ・チームのプレーを続けている選手が集まった組織。個人の技術向上ばかりを追求し、1軍に上がってから急にチームの勝利を考える人たちの組織。どちらがより多くの試合に勝てるかというと、明らかに前者です。だから私は2軍監督時代、導入教育を徹底したのです。

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