新入社員が自分の部署に配属され、教育係となった人もいるだろう。中には、「この仕事にどんな意味があるのですか?」という質問を受けて面食らったり「なぜ1回言ったことができないのか」と、いらいらしたりしている社会人の先輩もいるかもしれない。
新入社員の教育で大事なのは、「導入教育」だ。この導入教育とはどういうものか。また、なぜ大切なのか。それを理解するために、プロ野球の北海道日本ハムファイターズで、2軍監督やヘッドコーチを務めた白井一幸氏に聞いた。
チームが常勝球団に変わったのは、選手の頭の中で「チームの勝利」と「個人の成長」がつながったからだった。
2軍監督時代、球団に入ってきた新人選手に、あることを必ず教えたそうですね。
白井:プロ野球選手は野球がうまくなること、有名になること、たくさん稼ぐことが念頭にあり、まずは自分、という考えになりがちです。その考え方は正しいのか。私はプロ入りしてきた新人に、最初のミーティングでそう投げかけます。

1961年生まれ。駒澤大学卒業後、83年ドラフト1位で日本ハム入団。91年リーグ打率3位、最高出塁率を記録。現役引退後、ニューヨーク・ヤンキースにコーチ留学。2001年日本ハムの2軍監督、03年から1軍ヘッドコーチを務め、リーグ優勝2回、日本一1回を獲得。11年横浜ベイスターズの2軍監督。14年日本ハムに復帰し、1軍内野守備走塁コーチ兼作戦担当。16年日本一を獲得。17年退団。著書に『北海道日本ハムファイターズ流 一流の組織であり続ける3つの原則』(アチーブメント出版)などがある(写真:菊池一郎)
例えば、次の4つの状況。大半の選手は、これが望ましい順番と答えます。
- 個人成績は良く、チーム成績も良い
- 個人成績は良いが、チーム成績は悪い
- 個人成績は悪いが、チーム成績は良い
- 個人成績は悪く、チーム成績も悪い
ポイントは(2)と(3)の順番。選手が(3)より(2)を優先するのは、自分が良い成績を残せば、結果的にチームの勝利に貢献できると考えるからです。自分のことを後回しにしてチームのために働くのはアマチュアであり、自立したプロではない。そんな先入観を持っています。
でも、それは間違いです。少なくともファイターズの野球は逆で、チームの勝利を最優先してもらう。けれど、その考え方は、むしろあなた個人の成績を伸ばすことになると新人に教えます。
どのような理屈ですか。
白井:チームが勝つとファンは喜び、負けると悲しみます。勝つことで多くのファンが球場などに足を運んでくれ、そのチケット代などが選手の給料の元になります。給料を上げたいなら、チームの勝利を優先し、多くのファンに見てもらうことです。
問題は、全試合に勝つことは現実的に不可能なこと。もしかしたら、「今シーズンは今日しか来られない」というファンの前で、試合に負けるかもしれない。
ファンを悲しませたまま帰らせていいのか。来年また球場に来てもらうには、どうすればいいのか。私は、ファンにこう感じてもらうことが大切だと思うのです。
Powered by リゾーム?