買収した仏ルロア・ソマー社で社員に挨拶をする永守社長。海外の買収先企業にも3大経営手法を注入している
質問 企業規模は中堅と呼ばれるまでになりましたが、大きくなった分、うまくマネジメントができずに困っています。本社も店舗も仕事の効率が悪いのですが、どう対処すべきですか?
永守語録 「『井戸掘り経営』『家計簿経営』『千切り経営』が3大経営手法である」
企業規模が大きくなって経営が難しくなるのは、社内にあるさまざまな問題が見えにくくなったり、末端社員のアイデアや意見が聞こえなくなったり、コスト管理に甘さが出たりするためだ。
質問のように、この問題は大企業に限らない。中堅・中小企業でも、少し規模が大きくなって経営者の目が現場に届きにくくなると、症状が出やすくなる。いわば組織病のようなものだ。
三大経営手法で成長
日本電産の永守重信社長は、そうした規模拡大による弊害を独特の経営手法で突破しようとしている。自ら「三大経営手法」と呼んでいる「井戸掘り経営」「家計簿経営」「千切り経営」である。
一体何のことかと戸惑うだろう。まず「井戸掘り経営」とは、こういうものだ。
地球上の大抵の場所で土を掘れば水が出て、井戸になる。ただし、次々にくみ上げないと新しい水は出てこない。
経営の改革・改善のためのアイデアも同じ。常にくみ上げ続けるから、出てくる。これだけのアイデアを出したから、もう終わりということはない。くみ上げ続けるのが大事ということだ。
「家計簿経営」は、永守社長に言わせれば、家庭の主婦がやっているのと同じことだ。収入に見合う生活をするということである。
不景気になって夫の給料が減れば、晩酌でビールを2本飲んでいたのを1本にして支出を減らす。でも、子供の教育や家を持つといった将来の備え、資産形成などは頑張る。経費を収入の範囲に収めながら、投資にも目を配る。そういうやりくり経営のことだ。
そして「千切り経営」は、何か問題が起きたら、それを小さく切り刻めということ。難しそうに思えるものでも、小さく切り刻んで対処していけば、問題解決の糸口は見つかるというものだ。
日本電産の家電産業事業本部長でもある大西徹夫副社長は最近、事業の管理単位を大幅に小さくした。
所管する家電・商業・産業用モーター事業の売上高は約3100億円(17年3月期)。今年初めに米産業用モーター大手エマソン・エレクトリックから英仏子会社を買収したことなどで、今期は4000億円を突破する見通しだ。
大西副社長はこれに伴い、従来4つだった事業本部内の管理単位を今年下期から一気に14に増やした。売上高では1ユニット当たり100億~500億円。狙いは小さく分けて「1日、1週間、1カ月単位で収益を細かく管理し、収益計画に届かない場合、すぐに対策を取るといった機敏さをつける」(大西副社長)ことだ。
この取り組みは千切り経営の一種であり、管理単位を小さくすることでよりきめの細かい改善提案も出やすくなるという面では、井戸掘り経営でもある。
拡大しても管理は小さく
日本電産の経営は、「規模は大きくしても管理は小さくする」という独自の方向に向かっている。この考え方は中小企業にも参考になるはず。中小といえども、事業が大きくなり管理が行き届かなくなったら、もう一度小さく分けて千切り経営を実践するといい。
日本電産本体だけではない。
エアコン用ファンモーターなどを生産する日本電産テクノモータの廣部俊彦社長は、QCDS(品質、価格、納期、サポート)の質を高めることを目的に、千切り経営で課題を小さく分けて改善をしていくという。エアコン用モーターの需要動向が、同社が得意とする小型・高効率のDCモーターに大きく転換しているという市場の変化を確実に捉えるためだ。
斬新ではないが重要度は高い
三大経営手法はいずれも、際立った斬新さはないかもしれないが、重要度は高い。
例えば、井戸掘り経営で社内のアイデアをくみ上げ続けることは、「知」が生まれやすい組織風土をもたらすだろう。千切り経営も、困難な問題を小分けして解決策を練る中で、何事も諦めない体質づくりにつながる。家計簿経営は「赤字は罪悪」という永守経営そのものだ。
基本的な分、経営の本質を鋭く突いている。
(この記事は「日経トップリーダー」2017年12月号に掲載した記事を再構成したものです。肩書、数字などは掲載当時のものです)
あなたは、本当の仕事の勝ち方を知っているか? パワフル経営者、永守重信氏が「部下の耳にタコができて、そのタコにまたタコができるくらいまで、私は言い続けた」という門外不出の名言録を初公開!
世界一のモーターメーカー日本電産。その創業者、永守重信会長兼社長CEOは仕事における「勝ち方」を熟知している。日本電産社内で門外不出とされてきた名言録をはじめ、永守氏の珠玉の100の言葉から、仕事の極意を抽出。「仕事と情熱」「人と組織」「教育と成長」「上司と部下」「経営者と志」「変化と創造」の6つのテーマで、氏を長く見てきた経済誌記者が分かりやすく解説する。
新入社員から経営幹部まですべてのビジネスパーソンが体得したい「普遍的な仕事術」を学ぼう。
≪主な内容≫
第1章 仕事と情熱
第2章 人と組織
第3章 教育と成長
第4章 上司と部下
第5章 経営者と志
第6章 変化と創造
第7章 永守と名経営者たちが共通して抱えるもの
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