ただ、木村が社員に最も求めるのは技術よりも一生懸命さだ。上手に接客したり、おいしい寿司を握ったりするには、経験も必要だ。「でも一生懸命に走り回るのは、今日入った新人も、ベテラン社員も同じようにできる。一生懸命にお客様に接して、頭からつま先まで動かせばいい」。

ずっと向こうにいるお客が振り向いた

 すしざんまい本店が開店したとき、木村は深夜、お客がいなくても「いらっしゃいませ」と呼び込みをしていたという。すると、通りのずっと向こうにいるお客が1人振り向いて店に来てくれた。そうやって1人また1人とお客が集まり、気が付くと行列ができていた。

 自分自身、職人ではない。それでも、一生懸命に商売に身を投じることで、寿司業界で生きてきたという自負がある。だから、一生懸命さが足りない社員を見ると、思わず声を荒げてしまう。取材中も、覇気が足りない社員を叱り飛ばす場面があった。

月2回開催される店長会。参加者は居住まいを正して木村の話に聞き入る
月2回開催される店長会。参加者は居住まいを正して木村の話に聞き入る

 喜代村では毎月2回、新入社員の人数に関係なく、入社式が開催される。木村は毎回必ず出席し、1時間ほど一生懸命に熱弁を振るう。木村の思いに共感し、新入社員の表情がみるみる変わっていく。

「自衛隊に入るために家を出るとき、亡くなった母に『後ろ指をさされるようなことはするな。天と地と己が見ている』と言われた。どんなときも手を抜いたら絶対に駄目。お客様にもっと喜んでもらえるように、これからも一生懸命、頑張っていきたい」

(この記事は日経BP社『日経トップリーダー』2016年7月号を再編集しました。
構成:荻島央江、編集:日経トップリーダー

4月25日に「プラチナフォーラム2017 経営者懇談会」を開催

「日経トップリーダー」では木村清・喜代村(すしざんまい)社長のほか、オリックスの宮内義彦シニア・チェアマン、川淵三郎・日本サッカー協会最高顧問、津村佳宏・アデランス社長、鈴木貴子・エステー社長らを講師に招き「プラチナフォーラム2017 経営者懇談会」を開催します。日経トップリーダープラチナ会員の方は無料で参加いただけます。詳細はこちらをご覧ください。

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。

この記事はシリーズ「ベンチャー最前線」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。