永守流「中間管理職を強くする方法」
「社員教育の基本は叱ることに始まり叱ることに終わる」
日本電産が1973年に創業した頃の「工場」。小さなプレハブから大きな夢を育てた
質問:中間管理職が弱くて悩んでいます。部下をうまく動かせないのです。彼らに指摘すると一瞬は頑張るのですが、そこまでです。どうしたらいいですか?
永守語録 「叱るということは、上司が関心を持っているということ。望みがあるから叱る。『なにくそっ』とやる気を起こしてくれる可能性があるから叱るのだ」
※永守氏の言葉は『日本電産 永守重信が社員に言い続けた仕事の勝ち方』(日経BP社)
約300社に上る日本電産グループの中に、日本電産グローバルサービスという会社がある。グループの社員向けの保険販売、グループの工場が集中立地する中国・浙江省でのホテル運営など、グループの福利厚生を請け負う会社として1999年に設立された。
ところが今では、オフィス内の自動販売機の設置運営サービスや、マッサージ機など健康器具のオフィス設置サービス、さらには情報管理システムの販売など、社外に事業を広げている。2017年3月期の売上高は約40億円に上り、その約6割を外販で稼ぎ出す。
職業訓練大学校時代の永守社長の後輩で、日本電産の創業以来、女房役として支え続けてきた小部副会長(写真:宮野正喜)
多くの大企業で、こうした社内向けの福利厚生サービス会社はあるが、実際の業務は社外の専門業者に任せるだけの“トンネル会社”であるケースがほとんど。定年間近の高齢社員や、役員になれなかった社員を処遇する場であることも珍しくない。
しかし、日本電産では福利厚生会社でも「成長」を目指しているのだ。この会社を会長として率いているのは、日本電産の創業時からのメンバーである小部博志氏。日本電産の副会長執行役員CSOだ。
「企業である以上、成長を目指すのは当たり前」。小部副会長はあっさり言い切るが、通常の企業では、そう簡単にはいかない。日本電産の場合というわけではないが、この種の企業がグループの中核というケースは滅多にない。
そうなると多くの場合、非主力事業に携わる社員はモチベーションが上がらず、事業は伸びないという悪循環に陥りやすい。中小企業でも、中心になる事業とそうでない事業はあり、その場合は同様の状況になるはずだ。
日本電産は、ここのところをどう突破しているのか。
社員の士気を徹底して高める永守社長の熱意と、毎日の仕事の中で業務の改善を考え、勉強するように仕向ける教育の仕組みもその一つである。
社員教育の基本は「叱責」
管理職に対して、何をするのか。「社員教育の基本は叱ることに始まり、叱ることに終わる」。永守社長はこう言い続けてきた。
約束したことができない。計画に達しない場合の対策が遅い。関係者との連携力がない。部下への指示が明確ではない……。幹部にそんな問題があると見るや、永守社長は遠慮なく叱ってきた。
それは、中間管理職自身が「すぐにも社員を叱れるようにならないといけない」(永守社長)と考えているからだ。叱ることの効用を永守社長はこう強調する。
「叱るのは、経営者(上司)が関心を持っているということ。望みがあるから叱る。『なにくそっ』とやる気を起こしてくれる可能性があるから叱るのだ」。つまり、永守社長に叱られる管理職は優秀であり、頼りにされているというわけだ。
ただ、これには前段がある。永守社長が創業時から掲げてきたものに、日本電産の三大精神と呼ぶものがある。
「情熱・熱意・執念」
「知的ハードワーキング」
「すぐやる、かならずやる、出来るまでやる」
ヒト、モノ、カネもない頃から永守社長は「24時間は誰にも平等にある」と周りを鼓舞した。人材も資金もないなら、他社の倍働いて乗り越えればいい。徹底した熱意とやる気で困難を突破する。それを繰り返し訴え続け、社員と共に働いてきたのだ。
「いつの間にか、同じ考え方が頭にすり込まれた」。古参幹部の一人、日本電産シンポの井上仁取締役専務執行役員がこう苦笑いするほど、永守イズムが浸透しているからこそ、叱り、叱られるという関係が成り立つ面がある。
三つ褒めて、一つ叱る
ただし、若手社員に向かってはそこまで厳しく言わない。「1年くらいかけて、相手のものの考え方や反応の仕方などを調査・観察して、叱り方を検討してから」と永守社長。ただし、叱ることを忘れているわけではない。
「最初は三つ褒めて一つ叱る。途中から三つ褒めて二つ叱る。さらに次は三つ褒めて三つ叱る。このようにして、叱る比率を褒める比率にだんだん近づけていく」
永守イズムを浸透させつつ、永守社長自身も、世界のグループ企業を毎月のように回りながら指導するほど働き続ける。その懸命な努力が、叱責の裏の迫力になっているのも間違いない。
(この記事は「日経トップリーダー」2017年12月号に掲載した記事を再構成したものです。数字などは掲載当時のものです)
あなたは、本当の仕事の勝ち方を知っているか? パワフル経営者、永守重信氏が「部下の耳にタコができて、そのタコにまたタコができるくらいまで、私は言い続けた」という門外不出の名言録を初公開!
世界一のモーターメーカー日本電産。その創業者、永守重信会長兼社長CEOは仕事における「勝ち方」を熟知している。日本電産社内で門外不出とされてきた名言録をはじめ、永守氏の珠玉の100の言葉から、仕事の極意を抽出。「仕事と情熱」「人と組織」「教育と成長」「上司と部下」「経営者と志」「変化と創造」の6つのテーマで、氏を長く見てきた経済誌記者が分かりやすく解説する。
新入社員から経営幹部まですべてのビジネスパーソンが体得したい「普遍的な仕事術」を学ぼう。
≪主な内容≫
第1章 仕事と情熱
第2章 人と組織
第3章 教育と成長
第4章 上司と部下
第5章 経営者と志
第6章 変化と創造
第7章 永守と名経営者たちが共通して抱えるもの
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