他社よりもひと足先に新世代技術「SKYACTIV」の導入を進めたマツダは、最初にSKYACTIVを導入した「CX-5」を、2017年2月に全面改良する予定で、商品の世代交代が二巡目に入っている。新型CX-5はまだステアリングを握る機会に恵まれていないが、従来車で弱点とされた内装の質感が大幅に向上しており、この分野では定評のあるドイツのプレミアムメーカーの同クラス車に比べても遜色のないものになっている。
先に挙げた富士重工業のインプレッサも、このコラムの第65回で紹介したように、欧州の同クラス車にひけを取らない走りを実現しており、新世代技術の導入によって日本メーカーのクルマの底上げは着実に進んでいる。これに、冒頭に挙げたような円安基調が加わり、2017年は日本の自動車業界にとって「中吉」といえる状況が続く公算が強い。
ビジネスモデル転換に備えよ
ただし、2020年、さらにその先を見通すと日本の自動車業界にとって「暗雲」とも考えられるようなことが近づいている。一つはこのコラムの第67回で取り上げたように、欧州を中心に電動化の動きが急展開し始めたことである。世界最初の量産電気自動車(EV)の「リーフ」を商品化した日産自動車を除くと、国内のメーカーはHEVに力を入れており、EVの量産化には積極的ではなかった。
しかし、欧州では2025年以降に、世界で最も厳しいCO2の排出量規制の導入が予想されており、エンジン車の改良だけでは達成が難しい見通しだ。HEVを飛び越し、走行中はCO2を排出しないEVの販売比率を増やすことでCO2排出量規制を乗り切ろうという戦略である。実際、ドイツ・フォルクスワーゲン(VW)やドイツ・ダイムラーは2025年までにEVの比率を25%程度にまで高めるという目標を掲げる。
これに対しトヨタやホンダといった日本メーカーは、同じCO2を排出しない環境車両でも、EVより航続距離が長く、エネルギーの補給も短時間でできる燃料電池車(FCV)に力を入れてきた。しかしその販売台数の目標は、2025年でもせいぜい数万台程度と、VWやダイムラーが進めるEVの導入に比べてはるかに遅い。
エンジンのないEVの大量導入は、エンジン部品を手がける部品メーカーを傘下に多く持つ自動車業界のビジネスモデルを根底から覆す可能性があるだけに、日本メーカーはこれまで慎重だった。しかし、欧州メーカーが先鞭を付けたトレンドが世界に広がっていくというのがこれまでの自動車業界の歴史であり、この動きに乗り遅れれば、日本メーカーは存在感を失いかねない。
そして2030年以降にはさらに大きな変化が待ち受けている。それが、このコラムでも再三触れている「自動運転革命」である。このコラムの第11回でも詳しく解説しているように、完全自動運転が実現し、「無人カー」が街を走り回るようになれば、クルマは所有するものから、「呼び出して使うもの」への移行が進み、自動車というビジネスモデルは一変する可能性が高いと筆者は考えている。
2016年12月22日に伝えられたホンダがグーグルと提携に向けて検討を始めたというニュースは、いよいよ日本の自動車業界が、米国の巨大なIT企業との協力関係を模索し始めた動きとして極めて興味深い。その帰趨(きすう)はまだ分からない。しかし、巨大な変化に向けて、従来の常識にとらわれない経営判断が求められていることは確かだ。
目下の順風に乗りつつ、次の荒波や、遠くに見える暗雲へ粛々と準備を進める。そんな周到な目配りが求められる年になるだろう。
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