
日産自動車の初代「リーフ」のデザインが、筆者はそんなに嫌いではなかった。うねるような曲面で構成された外板パネルの形状は生き物のようで、環境にいいクルマというコンセプトに合っていたし、ボンネットの上にちょっと飛び出した形状の大きなヘッドランプも、カエルの目みたいで愛嬌があると感じていた。

だが、こういう見方は多数派ではなかったらしい。どうも初代リーフのデザインは、あまり評判が良くなかったようなのだ。筆者がある日産関係者に「本当に評判悪かったんですか?」と尋ねても「いやー、あれは良くなかったですね」としみじみ語っていたから、日産の社内では共通認識だったのだろう。
電気自動車(EV)のデザインというのは難しい。2010年12月に、日産がEV専用車としては世界初の量産EVとして初代リーフを発売したとき、筆者は悪いデザインではないけれど、「せっかくのEVなのだから、もっとエンジン車との違いを強調するデザインにすればいいのに」とは思っていた。というのも当時、三菱自動車から軽自動車の「i」をベースにしたEVの「i-MiEV」がすでに発売されており、このi-MiEVのデザインがボンネットのない非常に斬新なものだったからだ。あまりにもその印象が強いものだから、ベース車のiの印象がかき消され、ガソリン車のiを見てもEVだと思ってしまうという消費者もいたという。

iのデザインが一般の消費者から見ても非常に印象的だったので、それによって当時は「EVといえば三菱自動車」というイメージが強かった。このイメージを覆して「EVといえば日産」とイメージを消費者に植え付けるのに、当時の日産はかなり苦労していたという話も聞いている。
斬新すぎるデザインを避けたつもりが…
ただ、あまりにも現在のクルマとかけ離れたデザインにすると、一般消費者に受け入れられないかもしれないという懸念から、初代リーフではあえて「斬新過ぎるデザインは避けた」と当時のデザイン担当者はコメントしていた。それに、EV専用車種とはいうものの、コストを抑えるために初代リーフはエンジン車の「Bプラットフォーム」と部品の共通化を図っており、実際問題としてもi-MiEVのようにボンネットのないデザインにするのは難しかっただろう。加えて、製造面を考えても、他の車種と同じラインで流すことを考えれば、エンジンを組み付ける工程をモーターを組み付ける工程に変えるだけで済むような車体構造にすることは、ある意味必然だったと思われる。
いずれにしても日産としては恐らく、初代リーフをそれほど斬新なデザインにしたつもりはなかったはずだ。だから消費者のネガティブな反応は、予想外のものだっただろう。デザインのせいだけではないだろうが、実際に初代リーフの生産・販売台数は日産の想定よりも大幅に少ないものだった。
こうした反省の下、2017年10月に約7年ぶりに全面改良して発売した新型リーフについて「点ではなく、面を狙っていく」と前出の日産関係者は話していた。つまり、一部の環境意識の高いユーザーだけでなく、普通のユーザーから普通に選んでもらえる車種にして、初代リーフよりも販売台数を大幅に上積みすることが、新型リーフの主要命題だった。その意思はまず新型リーフのデザインから強く伝わってくる。
素直に格好いいと思ってもらえるデザインに
新型リーフのフロントデザインは、「V字型」を強く強調する最近の日産車と共通するもので、初代リーフの、ちょっとユーモラスなヘッドランプ形状は一変して、強い「目ヂカラ」を感じさせるものになった。テールランプも、「フェアレディZ」や「ジューク」といった車種に共通するブーメラン型の形状になってスポーティさを強調している。確かに、新型リーフのデザインを見て素直に「格好いい」と思う人の比率は従来のリーフに比べて多いだろう。反面、EVらしいデザインか? といわれれば、そういう独自性はあまりない。
そういう印象がさらに強くなるのはインテリアのデザインである。上下2段に分けたデジタルメーターや、外観デザインに合わせた軟らかい独自形状のステアリング、白を基調にした内装色など、初代リーフはEVの独自性を表現しようという部分が随所に見られた。これに対して新型リーフの内装デザインは、EVの独自性というよりも、最近の日産車で共通のデザイン要素を盛り込んだものとなっており、リーフ独自の個性には乏しい。

最近の日産車のインパネは、カーナビの画面を中心にして、その両側に、翼を広げたようにパネルの形状が左右に向かって上昇していく「グライディング・ウイング」というデザインを基調にしており、新型リーフもこのモチーフを採用している。例えば、この特徴は欧州では2016年秋から発売している新型マイクラ(日本名マーチ、国内未発売)のインパネなどとも共通で、ついでにいうと、新型マイクラと新型リーフでは、ステアリング形状も同じだ。
筆者などは、せっかくEVなのだから、もっと独自性の強いデザインを採用したらいいのに、とか相変わらず思ってしまうのだが、個性が強くない、ということは嫌われにくいということでもあるわけで、ここでも今回のリーフの「面を狙う」という戦略が徹底していることを感じる。
徹底したコスト削減でお買い得に
新型リーフは、その価格でも「面を狙う」という戦略が徹底している。新型リーフは従来型(初代)と同様に、「S」「X」「G」という三つのグレードから構成されているのだが、初代の価格は、電池容量30kWhの大容量仕様(ほかに24kWhの仕様もあった)で、それぞれ319万7800円、364万8240円、401万8680円だった。これに対して、新型リーフは電池容量を全車種40kWhにアップしているにもかかわらず、価格はそれぞれ315万360円、351万3240円、399万600円と、Sグレードでは4万円強、売れ筋のXグレードでは13万円強も値下げしているのだ。
最も高いGグレードは2万円弱の値下げにとどまるように見えるが、じつは高速道路での単一車線における自動運転機能「プロパイロット」を標準で装備する。プロパイロットはすでに「セレナ」や「エクストレイル」にも搭載されているがオプション装備で、価格は他の先進装備とのセットで約14万~24万円に設定されている。プロパイロットの機能だけを取り出した価格は分からないものの、Gグレードにおいても、実質10万円以上の値下げになっているのは間違いない。EVで最大の難点とされる航続距離を、従来の280km(JC08モード、30kWhの仕様)から400km(同、新型)へと大幅に延ばしながらこれだけの値下げをするというのは買い得感がある。
これだけの値下げの「原資」を確保するために、新型リーフでは徹底的なコスト削減策を講じられている。まず、7年ぶりの全面改良であるにもかかわらず、プラットフォームは初代からの流用で、ホイールベースは2700mm、フロントのトレッドも1540mmと共通だ。リアのトレッドのみ、先代の1535mmから新型1555mmへと20mm拡大している。ちなみに新型の外形寸法は、全長4580×全幅1790×全高1540mmで、それぞれ先代よりも35mm長く、20mm幅広く、10mm低くなっている。
また、ちょっと驚かされるのが、先代から4枚のドアも流用していることだ。さすがに外板のみはデザイン変更に合わせて新しくなっているが、サイドウインドーや内装材の形状などは先代と共通だ。またインストルメントパネルもデザインは新しいが、スイッチや空調の吹き出し口などの基本的なレイアウトは従来型と共通で、細かいスイッチ類などは、例えばエアコンの操作スイッチや、シフトレバー(実際には変速するわけではなくパーキング、ドライブ、リバースなどの切り替えレバー)も流用している。

パワートレーンでも、先代とモーター本体は共通なのだが、モーターを駆動するインバーターを改良して、モーターの出力を従来の80kWから、新型では110kWへと大幅にアップしている。
印象的な乗り心地
では、いつものように走り出してみよう。まず印象的なのは良好な乗り心地だ。リーフは、車格でいえば、トヨタ自動車「プリウス」やマツダ「アクセラ」、スバル「インプレッサ」などと同じCセグメントに属する車種になる(プラットフォームはBプラットフォームベースだけれど)。しかしその乗り心地は、国産車では体験したことのないレベルのものだった。新型リーフは先代よりもダンパーの減衰力を10%下げているということだが、その効果か一般道でちょっと荒れた路面を走ったときとか、あるいは高速道路で路面の継ぎ目を通過した場合でも、シートを通じて伝わってくる衝撃は軟らかい。一方で、減衰力不足ということもなく、車体に伝わった衝撃はすっと収まる。これは、車体のねじり剛性を従来型よりも15%高めている効果もあるのだろう。
初代リーフは、エンジンルーム(モータールームというべきかもしれないが)内の左右を通る2本のフロントサイドメンバーの間をフレームで結合した構造が一つの特徴だった。左右のメンバーを結合できれば車体剛性の向上には大きな効果があるが、エンジン車ではエンジンが邪魔をして、左右のメンバー間をつなぐことはできなかった。リーフではEVであることを生かし、フレームの下にモーターを配置し、フレームの上にインバーターを配置することでこの構造を可能にしていたのである。
ところが新型リーフでは、モーターの上にインバーターを一体化したため、左右のメンバーをつなぐフレームを通すことができなくなった。確かにこのほうがパワートレーン全体のコンパクト化につながり、またモータ・インバータの車体への組み付けが1回で済むので生産性も上がるなどメリットもあるのだが、車体剛性がどうなっているのかがちょっと気がかりだった。しかし実際に新型リーフで走ってみると、「金庫のような」とはいかないものの、十分な車体剛性は確保している印象で、筆者の懸念は杞憂だった。
操縦安定性も高い
乗り心地のいいソフトな足回りを採用すると、コーナリング時などの操縦安定性が気になるが、じつはリーフはこの点でも優れた性能を発揮した。そこそこのスピードでステアリングを切っていっても、車両姿勢は安定しているし、ロールする速度もゆっくりなので、とても安心感がある。
その理由はリーフのレイアウトにある。EVは床下に重い電池を敷き詰めているので、重心の位置が低いうえに、その重い電池が車体の中央に積まれているので、車体の運動性能という面からは望ましい。重心の位置から遠いところにエンジンという重量物があるエンジン車に比べると、もともとの素性がいいということになる。つまり、重心が低いEVは、サスペンションを無理に硬くしなくても操縦安定性を確保できるので、もともと乗り心地との両立に有利なわけだ。新型リーフはその強みを十分に生かしていると思う。

もう一つ、運転していて安心なのは、低速から大きなトルクを取り出せるモーター独特の出力特性である。高速での合流のような加速度が要求される場面でも、320N・mという排気量3.0L級エンジンに匹敵するトルクを、しかも低い回転数から発生するので、アクセルを踏む力を少し増してやれば、すぐに巡航速度に達することができる。
手放せなくなるeペダル
このように、クルマとしての基本的な性能で非常に高い水準を達成している新型リーフだが、運転していて最も魅力的に感じたのが、今回から装備される「eペダル」だ。eペダルは乱暴に言ってしまうと、アクセルペダルにブレーキペダルの機能も兼ねさせたものだ。アクセルを踏み込むと加速するのは当然だが、アクセルを戻すと逆に減速度が発生し、アクセルから足を離すと完全に停止する。単に停止するだけでなく、油圧ブレーキと連動していて、坂道などでも停止位置を維持するから安心だ。
このeペダルは、すでに「ノート e-POWER」にも装備しているのだが、リーフでは電池容量が大きいことを生かして、より強い減速度を実現している。実際に使ってみると、この装備はほかのどの装備よりも欲しいと思った。こんなことをいうと怒られそうだが、街中での一時停止でいちいち止まるのは、煩わしいものだ。それが、eペダルだとぜんぜん面倒くさくない。アクセルペダルとブレーキペダルの踏み替えというのはこんなに面倒くさいものだったのかと、新型リーフに乗って改めて感じさせられた。
しかも、このeペダルの加速、減速の制御が非常によく躾けられていて、操作していて違和感がない。どういう速度域で、どの程度ペダルを戻したら、どの程度の減速度にするか、開発担当者はその煮詰めに相当時間をかけたのだろうと感じた。
自動運転機能のプロパイロットは、このコラムの第86回で取り上げたエクストレイルのものと基本的には変わらないので詳しくは触れないが、単眼カメラだけというシンプルなセンサー構成で、車線が消えかかっているところでも粘り強く車線を維持し続けようとするのは感心するのだが、一方で、車線がはっきり見えているのに、なかなかステアリング操作の支援がスタートしないときもあり、その境目がどこにあるのかがちょっと不可解だった。
電力消費量は?
最後に、気になる「電費」(走行距離あたりの電力消費量)についても触れておこう。筆者が今回試乗した総合的な電費は、7.0km/Wh(メーター読み)だった。1kWhあたり7.0kmの走行が可能だったということで、新型リーフの電池容量は40kWhなので、単純に考えると、280kmの走行が可能ということになる。また、これをコスト換算してみると、一般的な家庭の電力料金は概ね1kWhあたり25円だから、10km走行あたりの電力コストはだだいたい36円である。燃費が10km/Lのクルマと比べると、ガソリン価格を140円とすれば、1/4程度になるし、燃費が20km/L程度のハイブリッド車と較べても、半分程度で済むことになる。
ただし、断っておかなければならないのは、今回の試乗では天候が良かったので暖房も冷房も使わなかったということだ。もしエアコンを作動させていたら、ここから2割程度、電費は悪化していた可能性がある。
ここまで、新型リーフのいい面ばかり書いてきたような気がするが、もちろん難点もある。まず挙げられるのは価格だろう。プロパイロットを装備したGグレードの場合で、各種の補助金や減税が最大55万円程度期待できることを考慮しても購入額は約350万円と、同クラスのエンジン車やハイブリッド車に比べて50万~100万円高いのは否めない。
日常的な使い勝手の面では、床下に電池を積んでいるので通常のエンジンクルマよりも床面が高く、後席での乗車姿勢が若干「体育座り」になることや、前席下への足入れ性があまり良くないことは指摘しておくべきだろう。
また荷室スペース自体は深く大きいのだが、長尺の荷物を積もうとした場合に、後席下に電池を積んでいることもあって、後席を前に倒しても荷室スペースはフラットにならない。使い方によっては気になるユーザーもいるだろう。そしてもちろん、伸びたとはいえ、航続距離はまだガソリン車より短く、充電ステーションも増えたとはいえガソリンスタンドよりは少なく、そして充電にも時間がかかる。

それでも、新型リーフは乗り心地と操縦安定性のバランス、高い動力性能、eペダルの便利さ、維持費の安さ、それにここまでで紹介しなかったが静粛性の高さなど、1台のクルマとして非常に高い魅力を備えている。自宅のガレージで電源が確保でき、EVに興味があるという読者は、一度試乗して最新のEVがどういうものか体験してみることをお薦めする。
連載コラム「クルマのうんテク」の著者が予測する将来像
自動運転は、単にクルマの運転をラクする、安全にするためのものではありません。それは自動車産業のあり方を根本から変え、さらには周辺産業の姿を大きく変えるインパクトを秘めています。
「自動運転で伸びる業界 消える業界」(マイナビ出版)は、当コラムの著者である技術ジャーナリストの鶴原吉郎氏が、自動運転がもたらす変化の「本質」や、それがもたらす自動車産業の構造変化や、周辺産業への影響、主要プレーヤーの最新動向、そして自動運転を成立させている技術について分かりやすく解説しています。ぜひ書店でご確認ください。
この記事はシリーズ「クルマのうんテク」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?