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 ただ、開発はまだ緒についたばかりで、現地にあるのは市民サービスセンターだけだ。同センターは、これから建設される雄安新区の考え方を先取りするように比較的低層の計画展示館、行政サービス館、会議施設、商業施設、住宅などが並ぶ。同センターには一般車両は入れないため、3kmほど離れた駐車場で、電動バスに乗り換える。

市民サービスセンターの配置図。今回見学した計画展示館は向かって左側の建物

自動運転車が走り回る

 同センターの敷地内でまず目に入ってきたのが、先ほども触れた百度が中心となって開発を進めるオープンソースの自動運転ソフトウエア「アポロ」を搭載した自動運転の実験車両である。米フォード・モーターの「リンカーンMKZ」を改造した実験車両のほかに、自動運転車の開発ベンチャーである中国新石器(NEOLIX)の荷物輸送専用自動運転車が走行していたのが目を引いた。ただしどちらの車両も走行速度は遅く、走行実験をしているというよりは、デモ走行をしているような印象を受けた。

自動運転車の実験車両。(1)「リンカーンMKZ」を改造した実験車両(写真:日本電動化研究所)、(2)NEOLIXの貨物輸送専用自動運転車

 市民サービスセンター内には無人スーパーなどもあるらしいが、今回見学できたのは雄安新区のコンセプトや、開発計画などを紹介する計画展示館のみだ。内部は撮影禁止だったため紹介できないが、先に触れたような自然と共棲する新区のコンセプトが非常にリアルで立体的な映像やパネルで紹介され、さらに新区が建設される現地の文化財などのパネル展示もあった。新区は2035年までに相当規模の開発を終え、2050年頃までに完全に完成させる予定だ。この地域の人口は現在100万人程度だが、これが2035年には500万人規模になる計画だ。

 ただ、雄安地区にもPM2.5の影響は濃く、同センター訪問に先立って訪れた白洋淀も、濃いスモッグに覆われていた。緑豊かな自然と共棲する街、というコンセプトを実現するのは容易ではないと感じさせられた。日本でも古くは多摩ニュータウン、筑波研究学園都市などのニュータウンが建設されてきたが、最近は将来に向けての大規模なニュータウン構想は見られない。少子高齢化・人口減少などに対応した新しい時代の都市はどうあるべきか、新発想の構想がない日本の現状は残念だ。

雄安新区を訪れた日は、白洋淀の湖畔にも濃いスモッグが立ちこめていた

 トヨタ自動車は、2018年1月に開催された世界最大級の家電見本市「CES 2018」で、モビリティ・サービス専用の自動運転EVのコンセプト車「e-Palette Concept」を発表しました。2020年に実証実験を開始することを目指しています。日産自動車も2018年3月に自動運転EVを使ったモビリティ・サービス「Easy Ride」の実証実験を横浜・みなとみらい地区で実施しました。トヨタや日産だけではありません。いま世界の完成車メーカーはこぞって「サービス化」に突き進んでいます。それはなぜなのでしょうか。

 「EVと自動運転 クルマをどう変えるか」(岩波新書)は、当コラムの著者である技術ジャーナリストの鶴原吉郎氏が、自動車産業で「いま起こっている変化」だけでなく、流通産業や電機産業で「既に起こった変化」も踏まえて、自動車産業の将来を読み解きます。自動車産業の変化の本質はEVと自動運転が起こす「価値の革新」です。その全貌を、ぜひ書店でご確認ください。