スバルが2018年7月に発売した新型「フォレスター」。ただし、今回試乗した「e-BOXER」搭載グレードの「Advance」は9月に発売された。
年末の恒例行事である「カー・オブ・ザ・イヤー」が発表される時期になってきた。日本にはRJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)と日本自動車殿堂、それに日本カー・オブ・ザ・イヤーが選ぶ3種類のカー・オブ・ザ・イヤーがあって、すでにRJCは三菱自動車の「エクリプスクロス」を、日本自動車殿堂はマツダの「CX-8」をイヤーカーに選んでいる。そして最も歴史が古く、最も注目される日本カー・オブ・ザ・イヤーは、最終選考に進む上位10台「10ベストカー」を選んだところだ。
今回取り上げるスバルの新型「フォレスター」も見事この10ベストカーにノミネートされている。しかし、である。スバルはカー・オブ・ザ・イヤーの選考を辞退した。理由についてスバル自身は明らかにしていないが、このところ報道されている出荷前検査での不正が影響していると見られている。筆者は個人的にはこの決定は残念だ。確かに出荷前検査での不正はあってはならないことだが、企業全体の問題と、個々の製品の問題は切り離して考えてもいいのではないだろうか。そう考えたくなるくらい、新型フォレスターは出来がいい。
SGPの第二弾
新型フォレスターは、新型インプレッサに次いでスバルの新世代プラットフォームである「スバル・グローバル・プラットフォーム(SGP)」を採用した第二弾の車種である。SGPはこのコラムの第51回でも紹介しているように、これまでレガシィ系の上級車種と、インプレッサ系の車種で2種類あったプラットフォームを統合したものだ。レガシィ系とインプレッサ系で大きく異なっていたエンジン周りのフレームの構造を、SGPでは軽量化に有利なインプレッサ系のシンプルな構造に統一した。今後、レガシィ系の車種でもSGPへの移行が進めば、スバルはすべての車種を事実上一つのプラットフォームから作り出すことになり、開発・生産の効率は大きく向上する。
SGPの構造上の特徴は、エンジンルーム内の左右を走るフレームからの荷重を受けるフロア下のフレームを斜めに配置していることだ。この配置は、マツダやスズキなども採用している最近の国産車では“流行り”の方式で、フロントサイドフレームからの荷重を車体全体で効率よく分散できるので、衝突安全性と軽量化を両立できるメリットがある。
スバル・グローバル・プラットフォーム(SGP、下半分)と従来のプラットフォームの骨格の比較。SGPではフロア下のフレームを斜めに配置しているのが特徴だ(写真:スバル)
すでに筆者はSGPを採用した新型インプレッサに試乗して乗り心地と操縦安定性を高い水準で両立していることを実感した。この新開発のプラットフォームをベースに、新型フォレスターでは、その上にかぶせる「アッパーボディ」でも大幅な改良を加えている。例えばプラットフォームとアッパーボディの結合を強固にするとともに、ワゴン車やSUV(多目的スポーツ車)では弱点になりやすいリアゲート周りを補強している。
ハイブリッドではなくe-BOXER
もう一つ、新型フォレスターで特徴的なのはパワートレーンのラインアップだろう。従来型のフォレスターは排気量2.0Lの自然吸気エンジンとターボチャージャ付きの2種類が用意されていた。これに対して新型フォレスターは、2.0Lエンジンにモーターを組み合わせた「e-BOXER」と呼ぶハイブリッドシステムと、2.5L・自然吸気エンジンの2種類に変わった。従来のラインアップなら、パワーが欲しい向きはターボエンジンを選べばいいから、ある意味選択は単純だった。
これに対して、e-BOXERと2.5Lエンジンではやや選択が複雑だ。単に燃費を重視するならe-BOXERといえないところがややこしい。両者の燃費を比較すると、従来からの燃費計測値である「JC08モード」の燃費は、e-BOXER搭載車の18.6km/Lに対して、2.5Lエンジン搭載車は14.6km/Lとなって確かにe-BOXERのほうがいい。しかし、より実用燃費に近いとされる「WLTPモード」の燃費を比較すると、e-BOXER搭載車の14.0km/Lに対して2.5Lエンジン搭載車は13.2km/Lと大差はなくなる。しかもWLTPの郊外モード燃費および高速モード燃費を比較すると、e-BOXER搭載車の14.2km/L、16.0km/Lに対して、2.5Lエンジン搭載車は14.6km/L、16.4km/Lと逆転してしまうのだ。つまり、燃費で選ぶならe-BOXERとは必ずしもいえなくなる。
では、何を基準にして両者を選択すればいいのか。筆者なりの答えを後で示すとして、そもそもe-BOXERとは何か、というところからおさらいしたい。e-BOXERのベースになっているのは、先代の「SUBARU XVハイブリッド」に搭載されていたハイブリッドシステムである。このハイブリッドシステムは、10kWという比較的出力の小さいモーターと、0.6kWhという比較的小さいバッテリーを組み合わせた、いわゆる「マイルドハイブリッドシステム」である。
ちなみにトヨタ自動車のハイブリッドシステムと比較すると、フォレスターと同クラスの「Cセグメント」のSUVであるトヨタ「CH-R」のハイブリッドシステムは、モーターの出力が53kW、バッテリー容量は約1.3kWhだから、モーター出力で約1/5、バッテリー容量で約1/2ということになる。
先代XVハイブリッドのハイブリッドシステムには構成上の特徴もあった。先代XVのハイブリッドシステムは、トヨタのハイブリッドシステムのように駆動用と発電用の2基のモーターを持つ「2モーターシステム」ではなく、駆動用と発電用を兼ねるモーター1基だけのシンプルな「1モーターシステムである。この1モーターシステムでよく知られているのは、ホンダが先代「フィットハイブリッド」や先代「インサイト」などで採用していた「IMA(インテグレーテッド・モーター・アシスト)」というシステムだ。
このシステムでは、エンジンと変速機の間にモーターを置き、エンジンの駆動力を必要に応じてモーターがアシストする、という仕組みだった。シンプルな構成ではあるが、エンジンとモーター、それに変速機が直列につながっているため、エンジンを切ってモーターだけで走行する、いわゆる「EV(電気自動車)走行」ができないのが難点だった。
そこで先代XVハイブリッドでは、IMAと同様に1モーターのシステムでありながらも、エンジンの駆動力とモーターからの駆動力が別の経路から変速機に入るようにするとともに、エンジンと変速機の間に、駆動力を切るためのクラッチを備えた。これによって、エンジンを切ってモーターだけで走行する「EV走行」が可能になった。一方で、変速機と駆動輪の間にもクラッチを備えているのが特徴で、このクラッチを切ると、停車していて車輪が回っていなくても、エンジンでモーターを回して発電し、バッテリーを充電できる。IMAより複雑なシステムにはなったが、より制御の自由度を上げているのが先代XVハイブリッドのハイブリッドシステムの特徴だった。
「e-BOXER」の構成。クラッチを二つ配置することで、EV走行や停止中充電を可能にした(写真:スバル)
今回のe-BOXERは、この先代XVハイブリッドのハイブリッドシステムの特徴を基本的には受け継いでいる。エンジンやモーター、それに変速機の構成や、モーター出力なども同じだ。異なるのは、先代XVハイブリッドのバッテリーがニッケル水素電池だったのに対して、e-BOXERではリチウムイオン電池に変更していることだ。バッテリー容量は約0.6kWhで従来のXVハイブリッドと変わらないが、リチウムイオン電池には、同じ容量ならより多くの電流を取り出せるという特徴がある。このため、加速時などのモーターによるアシスト量を増やすことができ、走行性能の向上に貢献しているという。
新型を見分けるのが難しいデザイン
さて、車両の紹介はこのくらいにして今回も走り出してみよう。新型フォレスターを目の前にして抱く感想は二つだ。一つは、先代フォレスターとデザインの違いが分かりにくい「キープコンセプト」の全面改良だな、というもの。もう一つは「大きくなったな」というものだ。
まずキープコンセプトのデザインについてだが、恐らくクルマに詳しい人でなければ、新旧のフォレスターを見分けるのは難しいだろう。全体に箱型のデザイン、リアピラーに向けて切れ上がったサイドウインドー下端のライン。逆台形のグリル、「コの字型」のLED(発光ダイオード)車幅灯に囲まれたヘッドランプなど、デザイン上の特徴はすべて、新旧のフォレスターで共通だからだ。
よく見れば、ヘッドランプの“目つき”が鋭くなっていたり、グリルのメッキ部分が増えていたり、フォグランプ周りの装飾も増えていたりといった違いはあるのだが、仕事柄新型車を見慣れている筆者でさえ、よく見ないと新型フォレスターと旧型フォレスターを見分けるのは難しい。唯一、はっきり異なるのはテールランプの形状で、シンプルな形状だった先代に対して、新型フォレスターはフロントの車幅灯のデザインを反復した「コの字型」のデザインに変更された。新型フォレスターはフロントよりもリアのほうが見分けやすい。
デザイン上最も大きく変わったのは「コの字型」になったテールランプ(写真:スバル)
次に「大きい」についてだが、新型フォレスターの全長は4625mmで、先代フォレスターよりも15mmほど長くなっているに過ぎない。心理的に大きく感じるのは全幅で、新型フォレスターは1815mmと、ついに1800mmの大台を超えた。この全長、全幅の寸法そのものは、現代のCセグメントのSUVとしては標準的なものなのだが、フォレスターというとコンパクトなSUVというイメージがあるので(これはホンダCR-Vも同じだが)、実物を見ると大きいと感じてしまうのだろう。実際、一般の路上での取り回しなどにはもちろん支障はないのだが、今回首都圏の比較的古い公共地下駐車場に駐車したときには、1台当たりのスペースが小さいこともあって、駐車には非常に気を遣った。このクルマを乗り入れるなら、なるべく新しい駐車場を選んだほうが良さそうだ。
滑らかな加速
今回試乗したのは、先ほどから説明しているe-BOXERを搭載した「Advance」というグレードだ。走り出してまず感じるのが乗り心地の良さである。このクラスではこれまで、独フォルクスワーゲンの「ティグアン」が乗り心地では最も良好だと思っていたが、新型フォレスターはこれに迫る水準だと思った。いかつい外観に似合わない「癒やし系」の乗り心地なのが意外だった。同じSGPを採用したインプレッサは、どちらかというと硬めのすっきりした乗り心地だったので、余計に強い印象を受けたのだろう。
フォレスターの秀逸なところは、このように良好な乗り心地を実現しながらも、ステアリングなどの操作に対する機敏な応答を実現しているところだ。乗り心地を良くするためにばねを柔らかくすれば、どうしても操作に対する車体の姿勢の変化が遅れる。乗り心地をよくしながら高い応答性を実現できたのには、新型インプレッサにも採用している「車体に直付けしたリアスタビライザー」が効いているようだ。コーナリング時の車体の傾きを押さえるスタビライザーは、通常は車体ではなくサブフレームに取り付ける。そしてサブフレームはゴム製のブッシュなどを介して車体に取り付けることが多い。このため、車体の傾きを抑えようとする働きが遅れたり、揺れが収まりにくかったりする。
スタビライザーの新旧比較。新型フォレスターではスタビライザーをサブフレームではなく車体に直付けしたので、ロールを抑える効果が向上したほか、操作に対する応答性も向上させている(資料:スバル)
これに対してスタビライザーを車体に直付けすれば、車体の揺れを効果的に抑えることができる。ドライバーがステアリングを切ると、まずタイヤが向きを変え、その摩擦力によって車両の向きを変える力を生み出し、それがサスペンションアームやばねを介して車体に伝わり、車体が向きを変える。直付けのスタビライザーが、タイヤからの力をよりすばやく車体に伝えることによってステアリング操作に対する機敏な応答を生み出すのに貢献しているはずだ。
e-BOXERの走行面での効果だが、筆者は残念ながら先代のモーターなしの2.0Lエンジン車に乗っていないので、加速力の違いについては言及できない。ただ、応答性の高いモーターのおかげで、アクセル操作に対する加速の立ち上がりが速いことが、運転を気持ちよく感じさせるのに貢献している。
加えて、発進加速のスムーズさも利点だ。先ほど説明したようにe-BOXERでは1モーターシステムながらモーターのみで走行するEV走行を可能にしている。このため、アクセルを踏むとまずモーターだけで静かに発進し、その後にエンジンがかかる。通常のアイドリングストップ機構では、発進するたびにキュルキュルとエンジンがかかるのを煩わしく感じることがあるが、e-BOXERにはこれがない。またエンジンが始動するショックも非常に小さいから、注意していないと気づくのは難しい。このあたりの制御は非常に気を遣っていることが感じられた。
ここでやっと、e-BOXERと2.5Lエンジン車のどちらを選ぶかという話に戻ると、市街地を走行する機会が多いユーザーはe-BOXERを選んだほうがスムーズで快適な走行が味わえると思う。一方で、高速道路を走行する機会が多いユーザーは、よりのびやかな加速が楽しめ、燃費もいい2.5Lエンジン搭載車のほうが良さそうだ。
参考までに、今回の試乗車の燃費を紹介すると、燃費計の読みで、渋滞がちの市街地を走行したときで10km/L程度で、流れが良くなれば13km/L程度に向上する。100km/h程度で高速走行したときには16~17km/Lといったあたりだ。新型フォレスターのe-BOXER搭載車のWLTPモード燃費は、市街地モードが11.2km/L、郊外モードが14.2km/L、高速モードが16.0km/Lだから、これはかなり実走行燃費に近いのではないかと思う。
このように新型フォレスターは、CセグメントのSUVという激戦区で、乗り心地と操縦安定性のバランスという点では欧州車も含めてクラスでもトップレベルの性能を実現していると思う。燃費は「ハイブリッド」だと思えばもっと伸びてほしいとかんじるかもしれないが、2.0Lエンジン搭載車と考えれば良好だ。今回「ハイブリッド」ではなく、あえて「e-BOXER」と命名したスバルの狙いもそのあたりにあるのだろう。デザインはキープコンセプトで内外装ともに新鮮な感じは乏しいが、そのぶん使いやすくできている。このクラスのSUVの購入を考えていて、デザインが気にいるようなら、購入の最右翼になるクルマだろう。
トヨタ自動車は、2018年1月に開催された世界最大級の家電見本市「CES 2018」で、モビリティ・サービス専用の自動運転EVのコンセプト車「e-Palette Concept」を発表しました。2020年に実証実験を開始することを目指しています。日産自動車も2018年3月に自動運転EVを使ったモビリティ・サービス「Easy Ride」の実証実験を横浜・みなとみらい地区で実施しました。トヨタや日産だけではありません。いま世界の完成車メーカーはこぞって「サービス化」に突き進んでいます。それはなぜなのでしょうか。
「EVと自動運転 クルマをどう変えるか」(岩波新書)は、当コラムの著者である技術ジャーナリストの鶴原吉郎氏が、自動車産業で「いま起こっている変化」だけでなく、流通産業や電機産業で「既に起こった変化」も踏まえて、自動車産業の将来を読み解きます。自動車産業の変化の本質はEVと自動運転が起こす「価値の革新」です。その全貌を、ぜひ書店でご確認ください。
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