これに対して、燃焼圧センサーは燃焼室内の燃焼の様子を直接知ることができ、エンジン制御の精度を大幅に高めることができる。ただコストがかかるので、これまでのエンジンではなかなか搭載できなかったし、搭載しても1気筒だけという場合が多かった。これに対してSKYACTIV-Xは、点火プラグによって圧縮着火の時期を精密に制御するという、世界でも初めての方式を採用しているため、燃焼室内の状況をきめ細かく知る必要があり、全気筒への燃焼圧センサーの採用に踏み切ったわけだ。

 また、燃料噴射には、分割噴射という特殊な方式を用いている。これは、吸気行程(ピストンが下がってシリンダー内に空気を取り込む行程)と圧縮行程(ピストンが上昇して空気を圧縮する行程)の、二つの行程に分けて燃料を噴射するものだ。吸気行程中にあらかじめ燃料をシリンダー内に噴くことで、シリンダー内に燃料が分散するための時間を確保し、薄く均一な混合気をシリンダー内に形成する。そして、圧縮行程では、スパークプラグの周りに、火種になる濃い混合気を形成するために燃料を噴射する。これによって、点火プラグの周囲の混合気に着実に点火するようにしている。

 燃料の噴射圧力も高い。通常の直噴ガソリンエンジンでは10~30MPaと言われる燃料の噴射圧を、SKYACTIV-Xでは50~80MPaと2倍以上に高めている。これは圧縮行程中に短時間で燃料の噴射を終え、燃料の気化を促すためだ。

圧縮比は16:1

 SKYACTIV-Xエンジンの圧縮比は、この連載の第89回で予想した18:1よりも低い16:1だった。これは、会場の説明員によれば、より広い範囲で圧縮着火を可能にするためだという。これ以上圧縮比を上げてしまうと、高回転・高負荷の領域では圧縮着火の時期が早まり、コントロール不能になってしまうためだ。実際、SKYACTIV-Xではアクセルを全開にした領域付近まで圧縮着火領域を拡大しているというから、通常のドライバーが運転していて火花着火のモードになることはほとんどないのではないかと思う。

 逆にいえば、圧縮比16:1だと、低回転・軽負荷領域では圧縮着火が成立しにくくなると思われるのだが、点火プラグを使うことで、低い圧縮比でも圧縮着火を可能にしたのだと考えられる。

 ただ、HCCIエンジンで、着火時期をコントロールするために点火プラグを利用するというアイデアは、ホンダなど他の完成車メーカーでも検討している。そういう中で、なぜマツダが先行できたのか。それはやはり、ガソリンエンジンで始めての高い圧縮比である14:1を実現したSKYACTIV-Gエンジンでの開発経験が大きいという。

 SKYACTIV-Gでは、SKYACTIV-Xとは逆に、圧縮比を上げても異常着火しないぎりぎりの条件を探った。そうした経験が「限界の条件を見極める目を養ったのではないか」(会場の説明員)という。そしてまた、そうした条件を満たすためには、燃料の噴射量や噴射条件、点火のタイミングなどの制御が、従来エンジンより格段に難しくなった。世界初の燃焼をモノにするために、非常に粘り強い開発が要求されたのである。電動化技術に傾斜する完成車メーカーが多い中で、あえて内燃機関の究極に挑み続ける執念こそが、世界初のガソリン圧縮着火エンジンの開発に成功した原動力だった。口には出さなかったが、説明員の表情がそう語っていた。

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