たぶん、それは筆者の思い込みだけではないと思う。というのも、プジョーは今回のショーに1969年に発売された「504クーペ」をデザインのモチーフとしたコンセプト車「e-LEGEND」を出展したからだ。機能的には自動運転EV(電気自動車)という時流に沿ったものでありながらも、低いベルトラインや縦にステッチの入ったシートなどがレトロな雰囲気を感じさせる。このコンセプト車を見て、クルマに空力特性や安全性がいまほど要求されず、その分純粋にデザインの美しさを追求できた時代の良さを、いまさらながら思い知らされることになったのだが、PSAはコンセプト車だけでなく、市販車にも古き良き時代のデザインのエッセンスを盛り込んでいるのに違いないと508 SWを見て思った。

プジョーが今回パリモーターショーに出展したコンセプトカー「e-LEGEND」(手前)と、デザインのモチーフとなった「504クーペ」(写真:プジョー)
プジョーが今回パリモーターショーに出展したコンセプトカー「e-LEGEND」(手前)と、デザインのモチーフとなった「504クーペ」(写真:プジョー)

Bセグメントでここまでやるか

 一方、DSブランドの新型SUV「DS3 CROSSBACK」では、508 SWとは別の面で驚かされた。それは一言で表せば「Bセグメントでここまでやるか?」ということだ。まず最初の驚きがドアハンドルである。普段はボディパネルの中に格納されているのだが、キーを持ったユーザーが近づくと、自動的にせり出してくる機構を採用しているのだ。米テスラ社の高級EV「モデルS」などでは採用例はあるが、Bセグメントの車種での採用は聞いたことがない。テスラですら、Cセグメントの普及車種「モデル3」では、自動的にせり出す機構の代わりに、ドアハンドルの一端を車体内に押し込むと、他端が飛び出してつかめるようにする方式に変更して、コスト削減を図っている。国産車ではレクサスの最高級車でも採用していない機構だ。

PSAがDSブランドの新型車として出展した「DS3 CROSSBACK」(写真はEV仕様のE-TENCE、左)、普段は収納されているドアハンドル(中央)は、キーを持ったユーザーが近づくとせり出す(右)
PSAがDSブランドの新型車として出展した「DS3 CROSSBACK」(写真はEV仕様のE-TENCE、左)、普段は収納されているドアハンドル(中央)は、キーを持ったユーザーが近づくとせり出す(右)
[画像のクリックで拡大表示]

 室内に乗り込んでも驚きは続く。リアルステッチをあしらった本革調のパッドを貼ったインストルメントパネルや、DSブランドのロゴデザインをモチーフにしたダイヤモンド状のセンターパネルデザイン、ドアに配置した空調の吹出口、ちょっとポルシェ車を思わせるような、シフトレバーの両側に配置した多数のメッキボタンなど、ディテールの凝りようはちょっとこのセグメントでは見られなかったものだ。

DS3 CROSSBACKのインテリア。Bセグメントとは思えないほど細部のデザインが凝っている(写真:DS オートモビルズ)
DS3 CROSSBACKのインテリア。Bセグメントとは思えないほど細部のデザインが凝っている(写真:DS オートモビルズ)

 このショーにはレクサスのブースに、トヨタ自動車の新型SUV「レクサス UX」も展示されていたのだが、1クラス上のCセグメント車であるにもかかわらず、DS3 CROSSBACKに比べると内装は貧相に感じてしまったほどだ。正直にいって、これまでのDSブランドのデザインはそれほどいいと思っていなかったのだが、DS3 CROSSBACKですっかり見直してしまった。このところ、デザインや質感の面でドイツ勢にリードを許していた感のあるフランス勢だが、ことPSAグループに関しては独自の存在感を示しつつある。

次ページ 未来的だが現実味には乏しい