トラックなど商業用の車両に照準

 開発担当者も、筆者がぶつけたような疑問にはまったく同意していた。にもかかわらずFCV技術の開発を進めるのは「乗用車のような車種にはEVがいいだろうが、トラックや大型バン、バスなどの用途にはEVは不向きだから」だと説明する。FCVのメリットは、燃料補給にかかる時間が3~5分程度で30分程度かかるEVよりも短いこと、航続距離が600~700kmとエンジン車並みで、400km程度が多い(米テスラ車のような例外もあるが、非常に高価格だ)EVに比べて長いことだ。

 さらにFCVでは燃料を補給するための水素ステーションの数がまだ少なく、しかも設置には3~5億円と高額の投資が必要なことが普及を妨げている。この点、決まった経路を往復するようなトラックやバス向けなら水素ステーションの数を絞って稼働率を上げることができる。またトラックやバスは車両重量が大きいので、乗用車に比べて搭載バッテリーの容量を格段に大きくしなければ乗用車に比べるとトラックやバスがFCV向きなのはまぎれもない事実だ。

 ただし筆者には最後の疑問があった。というのも先に触れたように水素は他のエネルギーからつくり出す必要がある二次エネルギーであり、現在最も低コストな天然ガスから水素を作る方法では必ずしも環境に優しくないからだ。この点に関して、フォルシアの開発担当者は太陽光や風力といった再生可能エネルギーで水を電気分解して水素を作る技術に期待しているようだった。こうした水素の製造法は、確かに理論的には環境負荷が低いが、現状ではコストがかかりすぎ、採算に合わないというのがこれまでの通り相場だった。

 これに対してその担当者は(ドイツ人だったのだが)、ドイツでは再生可能エネルギーのバッファとして水素が広く利用されつつあり、こうした水素の生産量が増えれば、コストが大幅に下がると予想していた。これはどういうことかというと、太陽光や風力といった自然エネルギーは、生み出されるエネルギーが文字通り自然に左右されるため不安定なのが悩みだ。このため、生成量の多いときには何らかの形でエネルギーを蓄積しておき、これを不足したときに使うことでエネルギーの供給量を安定させることが望ましい。このエネルギーを蓄積する手段として水素を使うという方式がドイツで普及しつつあるのだ。

 現在ドイツでは、こうして生産された水素の余剰分を都市ガスに混ぜて一般家庭に供給し、一般家庭から排出されるCO2を減らす試みも実施されている。確かにこういう水素の利用が広がれば、FCVでの水素利用もメリットが出てくる。逆にいえば、FCVが本当に意味を持つためには、ドイツのように国全体で再生可能エネルギーから生産した水素を活用する政策を推進する必要がある。

韓国現代自動車が展示したFCV「NEXO」
韓国現代自動車が展示したFCV「NEXO」

 今回のパリモーターショーでは、韓国現代自動車も、2018年1月に米ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES 2018」で公開したFCV「NEXO」を展示していた。トヨタやホンダが今後本気でFCVの普及を目指すなら、日本政府には本気で脱化石エネルギーに舵を切ることを求めるとともに、海外においては、まだFCVに興味を示す企業が残っているうちに、より広く協力パートナーを求め、量産効果によるコスト削減を進める必要があるだろう。

■訂正履歴
本文1ページ目で「EQC」の車体寸法を「全長2873×全幅1884×全高1624mm」としていましたが「全長4761×全幅1884×全高1624mm」の誤りでした。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2018/10/10 16:00]

 トヨタ自動車は、2018年1月に開催された世界最大級の家電見本市「CES 2018」で、モビリティ・サービス専用の自動運転EVのコンセプト車「e-Palette Concept」を発表しました。2020年に実証実験を開始することを目指しています。日産自動車も2018年3月に自動運転EVを使ったモビリティ・サービス「Easy Ride」の実証実験を横浜・みなとみらい地区で実施しました。トヨタや日産だけではありません。いま世界の完成車メーカーはこぞって「サービス化」に突き進んでいます。それはなぜなのでしょうか。

 「EVと自動運転 クルマをどう変えるか」(岩波新書)は、当コラムの著者である技術ジャーナリストの鶴原吉郎氏が、自動車産業で「いま起こっている変化」だけでなく、流通産業や電機産業で「既に起こった変化」も踏まえて、自動車産業の将来を読み解きます。自動車産業の変化の本質はEVと自動運転が起こす「価値の革新」です。その全貌を、ぜひ書店でご確認ください。

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ウェビナー開催、「なぜ世界はEVを選ぶのか」(全2回)

 日経ビジネスLIVEでは2人の専門家が世界のEV事情を解説するウェビナーシリーズ(全2回)を開催します。

 9月30日(金)19時からの第1回のテーマは「2035年、世界の新車6割がEVに 日本が『後進国』にならない条件」。10月14日(金)19時からの第2回のテーマは「欧州電池スタートアップのCTOが現地報告、巨大市場争奪の最前線」です。各ウェビナーでは視聴者の皆様からの質問をお受けし、モデレーターも交えて議論を深めていきます。ぜひ、ご参加ください。


■第1回:9月30日(金)19:00~20:00(予定)
テーマ:2035年、世界の新車6割がEVに 日本が「後進国」にならない条件
講師:ボストン コンサルティング グループ(BCG)マネージング・ディレクター&パートナー滝澤琢氏

■第2回:10月14日(金)19:00~20:00(予定)
テーマ:欧州電池スタートアップのCTOが現地報告、巨大市場争奪の最前線
講師:フレイル・バッテリー(ノルウェー)CTO(最高技術責任者)川口竜太氏


会場:Zoomを使ったオンラインセミナー(原則ライブ配信)
主催:日経ビジネス
受講料:日経ビジネス電子版の有料会員のみ無料となります(いずれも事前登録制、先着順)。

>>詳細・申し込みはリンク先の記事をご覧ください。