結晶粒を細かく

 ではどうやってDyの使用量をゼロにしたのか。まず磁石の作りかたを見直した。一般的なネオジム磁石の作り方は「焼結法」といって、原料を細かく砕いて磁石の粉末を作り、これを高温・高圧で焼き固めるという方法だ。これに対して、今回ホンダが採用した磁石は「熱間加工法」という従来とは異なる方法である。この熱間加工法は大同特殊鋼だけが工業的に生産できる技術なのだという。

 その熱間加工法だが、まず材料粉末の作り方が従来とは違う。溶融状態の原料を急冷することで、まず結晶粒の非常に小さい粉末を製造するのだ。この粉末を容器内に入れて加熱しながら狭い出口から押し出すことで、棒状や板状の磁石を製造する。磁石の結晶粒を小さくすると、重希土類を添加しなくても耐熱性を向上させることができるという性質を利用している。この手法で製造した磁石では、結晶粒の大きさを従来の1/10以下のナノメートルオーダーにできるという。

 ただし、磁石の作り方を変えただけではまだ耐熱性は足りなかった。このため新型モーターでは磁石の配置も変えた。具体的には、従来1枚の大きな磁石をローターの表面近くに取り付けていた構造から、磁石を2分割して、V字型に配置する構造に変えた。さらにローターには磁石の周囲に小さな穴を多数設けて、磁石の角に磁束が集中するのを防ぐようにした。これによって磁石が局所的に高温になるのを防ぐことで、磁石に重希土類を使わなくても従来と同等のモーター性能・効率を確保することができた。

 この新型モーターの製造ラインはちょうど報道関係者に設備を公開した8月23日から稼働を始めた。これは、タイミングをそれに合わせたわけではなく、たまたま、だという。新しい製造ラインを見る前に見せてもらった従来型のモーター製造ラインと外観はほとんど同じだった。正確にいえば、モーターの製造ラインというのは正しくなく、モーターの中の、ローターの製造ラインである。外部の企業から購入しているローターコア(磁石を取り付ける前のローター)をラインに投入すると、ロボットが完全自動で磁石やその他の部品を取り付けて完成させるというラインだ。

鈴鹿製作所内に設置した小型車用新型モーター(ローター)の製造ライン。報道関係者に公開した8月23日から稼働を開始した
鈴鹿製作所内に設置した小型車用新型モーター(ローター)の製造ライン。報道関係者に公開した8月23日から稼働を開始した

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