Dyの使用量をゼロに

 最初に見学したのは、ホンダの鈴鹿製作所内にある新型フリードハイブリッド向けモーターの製造ラインだ。このモーターは、先ほども触れたように、重希土類を使わないことに特徴がある。より細かく言えば、モーターに使っている磁石に、重希土類のDy(ジスプロシウム)やTb(テルビウム)を含まないのが大きな特徴だ。

9月に発売する新型「フリードハイブリッド」に搭載予定の新型モーター。使っているネオジム磁石に重希土類のジスプロシウム(Dy)を全く含まないのが特徴。磁石をV字型に配置した
9月に発売する新型「フリードハイブリッド」に搭載予定の新型モーター。使っているネオジム磁石に重希土類のジスプロシウム(Dy)を全く含まないのが特徴。磁石をV字型に配置した

 やや専門的な話になるのだが、現代のHEVやEVは、駆動モーターに「永久磁石式同期モーター」という方式のモーターを使っている。モーターは通常、ステーターと呼ぶ回転しない円筒形の部分と、ステーターの中で回転するローターから構成されている。

 永久磁石式同期モーターは、ローターに永久磁石が取り付けてあり、一方のステーターは、内側に多数の突起が出ていて、その突起の周りには銅線が巻いてある。銅線に電流を流すと、突起の部分は電磁石として働く。ステーターの電磁石と、ローターの永久磁石の間に働く吸引力・反発力を利用してローターを回転させる仕組みだ。

 現在のHEVやEVに使われている永久磁石式同期モーターでは、永久磁石に「ネオジム磁石」を使っている。ネオジム磁石は、鉄、ネオジム(Nd)、ホウ素(B、ボロン)を主成分とした磁石で、1984年に発明された比較的新しい磁石だ。現在知られている中で、最も強力な永久磁石とされている。ただし、難点もあって、その1つは鉄を大量に含むため錆びやすいこと、そしてもう1つが、高温環境下では磁力が弱まることだ。

 このうち、錆びやすい点については表面をコーティングすることで対処するのだが、もう1つの難点である熱に弱いことに対しては、DyやTbを添加するのが最も効果的な対策になる。だいたい、磁石の質量に対して、5~10%のDyやTbを添加することが必要といわれている。

 ところが、このDyやTbは希土類元素の中でも鉱床が中国に偏在している資源である。ネオジム磁石に含まれるNdなど軽希土類の鉱床は中国以外にオーストラリア、北米など世界中に豊富に存在しており、調達の不安は少ない。ところが、重希土類の鉱床は中国華南地域に限定されており、希少性が高い。

 この連載の第7回でも触れたのだが、2011年に中国が輸出関税を引き上げた影響などで、Dyの価格が一時1キログラムあたり3000ドルを超え、それ以前の6~7倍に高騰するなど、レアアースを巡る混乱が起きた。その後、2013年になってDyの価格は1キログラムあたり500ドル程度と、高騰前の水準に戻っているが、中国と日本の関係がぎくしゃくしている現在、何かきっかけがあれば、再び中国がレアアースの対日輸出量を絞り込む可能性は否定できない。

 こうしたことからホンダは2011年以来、重希土類を使わないモーターの開発を進めてきた。新型フリードハイブリッドに搭載する予定の新型モーターは、大同特殊鋼と共同で開発した、重希土類を使わずにHEV用に使える耐熱性と磁力を備えたネオジム磁石を使っている。自動車用で、重希土類を全く使わないネオジム磁石を採用するのは世界で初めてだという。

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