
やっと本来の「カローラ」が戻ってきた…。トヨタ自動車が2018年6月に発売した新型「カローラスポーツ」を見ての感想だ。カローラのハッチバックモデルの登場は、3代目カローラの「カローラ30」に設定された「カローラリフトバック」に遡る。
その後、5代目では初めて5ドアモデルが設定されたが、7代目以降は国内でハッチバックモデルが設定されなくなり、9代目モデルで「カローラランクス」として復活した。ところが10代目モデルでは再びハッチバックモデルが廃止され、一方で、カローラランクスの後継モデルとして小型ハッチバックモデルの「オーリス」が発売された。そして今回、2代目オーリスの後継車種としてカローラスポーツの名称でカローラのハッチバックモデルが復活したわけだ。
かつては看板車種
カローラといえば、かつては国内新車販売ランキングで1位の常連車種であり、文字通り国内販売の屋台骨だった。全面改良にもトヨタ自身、非常に力を入れていた印象がある。筆者にとって個人的に印象に印象に残っているカローラは3代目の「カローラ30」と、バブル景気のさなかに開発された7代目モデルである。30モデルでは、2代目よりもずっと近代化されたデザインと、豪華になった室内に驚いた記憶がある。

7代目モデルも、徹底的に品質向上を図り、車体の80%以上に防錆鋼板を採用したり、コネクタの端子に金メッキを施したり、あるいはインストルメントパネルも全面をソフトパッドで覆うといった、小型車クラスとは思えないような仕様・装備が特徴だった。大げさにいうと、カローラの品質・技術水準が向上することが、トヨタ車全体の底上げにつながっているような印象があった。
それがいつしか「プリウス」や「アクア」といったハイブリッド車(HEV)に国内市場での主役の座を奪われ、地味な存在になっていた。その理由の一つは、日本のカローラが国内向けのローカルなモデルになってしまったことだ。カローラというクルマ自体は、現在でもトヨタの世界販売の屋台骨である。
やや古いデータになるが、2015年のカローラの世界販売台数は約134万台と、同じ年のトヨタの世界販売台数919万台の14.6%を占め、依然として最も販売台数の多い車種であり続けている。2015年までの時点で、創業以来のトヨタの総販売台数の5台に1台をカローラが占めるという。トヨタで1番であるだけでなく、2017年の世界販売台数で、ホンダ「シビック」やフォルクスワーゲン「ゴルフ」をしのぎ、世界で最も売れている車種がカローラだ。
国内向けはローカルなモデルに
ところが、この134万台という世界販売台数のうち、日本市場での販売台数は11万台と1/10以下に過ぎない。カローラにとって日本は、小さなローカル市場に過ぎなくなった。最も販売台数の大きいのは41.1万台を販売する米国と、30.6万台を販売する中国で、この2カ国で半分以上を占める。そしてカローラは10代目以降で、国内向けカローラと海外向けカローラが別のモデルになり、国内向けカローラは「カローラアクシオ」の名称で販売されるようになった。海外向けカローラは全幅が1.7m以上の3ナンバーモデルになり、採用されるプラットフォームも新世代のものに一新されたが、国内向けの10代目カローラは、5ナンバーの車体寸法を維持するため9代目カローラのプラットフォームを改良して流用し、エンジニアリング的に日本のカローラは海外向けと比べて1世代前のモデルになってしまった。
そして次の世代の11代目カローラ(国内向け)は、さらに海外向けとの距離が離れてしまう。3代続けてのプラットフォームの流用は難しく、かといって海外向けカローラのプラットフォームは全幅が5ナンバーサイズに収まらないため、使えるプラットフォームがなくなってしまったのだ。そこで苦肉の策として国内向けの11代目カローラは、1クラス下の、「ヴィッツ」などに使われているBセグメント向けのプラットフォームを改良して用いることにした。
もともとは1クラス下の車種向けに開発されたプラットフォームだけに、カローラ向けに採用するにあたっては車体の補強に苦労したと、11代目カローラの発表イベントで開発担当者は話していた。さらにいえば国内向け11代目カローラの開発で主体となったのは、生産も担当した関東自動車工業(当時、現在のトヨタ自動車東日本)であり、トヨタ本体ではなかったことからも、国内向けカローラが、もはやトヨタのメインストリームの車種ではなくなったという印象を受けた。
TNGAでプラットフォームを一新
これに対して、今回登場したカローラスポーツは12世代目のカローラということになる。これまで国内向けカローラの呪縛となってきた5ナンバーの制約から解き放たれ、1790mmという、世界のCセグメント車の標準的な全幅の車体となった。ちなみに、競合するマツダ「アクセラ」の全幅は1795mm、スバル「インプレッサ」が1775mmとなっている。全長はアクセラの4470mmやインプレッサの4460mmよりも100mm程度短い4375mm、全高もアクセラの1470mmやインプレッサの1480mmよりも低い1460mmとなっており、比較的コンパクトな車体寸法だ。
プラットフォームはようやくトヨタの最新の車両技術「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」に基づく「GA-Cプラットフォーム」になった。このプラットフォーム自体はすでに、現行型「プリウス」や、SUV(多目的スポーツ車)「C-HR」に採用されているが、車両の開発時点が新しいだけに、より改良されているという。
じつはこのカローラスポーツで、筆者が大きな勘違いをしていたことがあった。それは、このカローラスポーツに、トヨタの最新のCVT(無段変速機)である「Direct-Shift CVT」が採用されると思っていたのだ。この新世代CVTについてはすでにこの連載の第104回で紹介しているのだが、発進時にベルトではなく歯車で動力を伝えることによって、通常のAT(自動変速機)のようにエンジンの回転数の上昇とクルマの加速が連動するリニアな加速感が得られるのが特徴だ。アクセルを踏み込むと、まずエンジンの回転数が上がり、それに遅れて車体の加速が始まる、CVT独特のリニア感の乏しい加速フィール、いわゆる「ラバーベルトフィール」を解消できる技術として筆者も注目していた。
大いなる勘違い
じつはこの104回の記事を書いたあとに、あるトヨタ関係者が「あの記事は間違っている」と指摘してきたのだ。Direct-Shift CVTを最初に採用するのは、この記事に書いてあるレクサスの新型コンパクトSUV「レクサスUX」ではなく、カローラスポーツだというのだ。だから筆者は今回、わざわざカローラスポーツのハイブリッドではない仕様を借り出し、トヨタの新世代CVTの感触を確かめようと思っていた。ところが、である。よく調べてみると、国内向けのカローラスポーツの直列4気筒・1.2L直噴ターボエンジンに組み合わされる変速機は、新世代CVTではなく、従来からの「Super CVT」だったのだ。
ではそのトヨタ関係者の指摘は間違っていたのか。そうではない。実はカローラスポーツはすでに、国内だけでなく米国でも販売されている(現地ではカローラハッチバックと呼んでいる)のだが、ガソリンエンジン仕様車のみでハイブリッド仕様は用意されない。しかも、そのガソリンエンジンは国内仕様のような1.2Lターボではなく、2.0L自然吸気エンジンなのである。この2.0Lエンジンに、新世代CVTが組み合わされているのだ。
性能はほぼ互角
この2.0Lエンジンは、トヨタが「Dynamic Force Engine」と呼ぶ、TNGA思想に基づいて骨格から新設計した新世代エンジンで、最大熱効率40%という、ガソリンエンジンとしては最高水準の値と、全域でのトルク向上を実現しているものだ(同エンジンについてはこちらに詳しい)。くやしまぎれに、国内向けの1.2Lターボ仕様と、米国向けの2.0Lエンジン仕様を比較してみると、かなり興味深い結果になった。簡単にいえば、米国向けの2.0Lエンジン仕様車は、1.2Lターボ車を出力で上回るだけでなく、燃費でもほぼ同等の性能を性能を示した。
ご存知のように、米国と日本では単位の体系が異なるため、すべて日本の単位に換算している。しかし燃費の値は、国内仕様のカローラスポーツの値はWLTP(Worldwide harmonized Light vehicles Test Procedure)と呼ばれる基準で測定したものであるのに対して、米国仕様のカローラスポーツは、米国基準で測定した値なので、厳密な比較はできない。
それでも、米国仕様のカローラは市街地燃費で国内仕様を上回り、逆に高速燃費では国内仕様が上回っているところから見ると、実力としての燃費性能は大差ないと考えていいだろう。ちなみにWLTPとは、現行のJC08モード燃費に代わって2018年10月から表示が義務付けられる新しい燃費測定基準で、これまで異なっていた国ごとの測定法を統一したものだ。
国内仕様が採用している1.2Lターボエンジンは、いわゆる「ダウンサイジング」の思想に基づいて設計されたもので、その考え方は「排気量を小さくして燃費を向上させ、低下した出力はターボで補う」というものだ。しかし、国内仕様と米国仕様のカローラスポーツを比較して見えてきたのは、自然吸気エンジンでも上手に設計すれば出力でも燃費でも同等以上の性能を発揮できるという事実である。
ただし、もちろん1.2Lターボエンジンにもメリットはある。まず挙げられるのは軽量であることで、米国仕様と比べると約80kgも軽い。またこれはコストの差ということではないかもしれないが、米国仕様と日本仕様では、ベース価格も日本仕様のほうが安い。それに、自動車税はエンジンの排気量で決まるので、2.0Lエンジン車よりも1.2Lエンジン車のほうが安く上がるのもメリットといえるだろう。ただ、日本仕様で、最新世代のエンジンとCVTを組み合わせた仕様を選べないというのは、カローラスポーツで残念な点といっても差し支えないだろう。
印象的な乗り心地の良さ
さて、今回も前置きが長くなったのだが走り出してみよう。今回試乗したのは、ガソリンターボ仕様でも最もベーシックな「G“X”」というグレードである。この仕様、アルミホイールも履かない、室内のドアハンドルもメッキされていないという一見地味なグレードではあるのだが、オートエアコンは標準装備で、パーキングブレーキも電動式。しかも極めつけは、最新の「トヨタ・セーフティ・センス」も標準装備している。これで213万8400円というプライスタグはお買い得に感じる。
走り出して最も印象的だったのはその乗り心地の良さだ。このグレードのタイヤが195/65R15という扁平率の低いタイヤだったこともあるだろうが、低速から高速まで、段差を乗り越えたときの衝撃を柔らかく丸め込み、しかも減衰も早い。これに加えて、シート表皮も感触の柔らかい素材でできているので、かなり癒し系の乗り心地と感じる。
かといって、運動性能を犠牲にしているわけではない。タイヤはグリップよりも燃費性能を重視したタイプなので絶対的な限界性能は低いが、高速でのコーナリング中も車両の姿勢は安定している。これは、このカローラで採用した新開発のダンパーも貢献しているはずだ。このダンパーは、段差を乗り越えたときなど、急激にダンパーが縮むようなときの減衰力は低くする一方で、コーナリング中のようにゆっくりとダンパーに縮む力が加わったときの減衰力を大きくするという特性をもたせたもの。
従来は、コーナリング特性を向上させるためにゆっくり縮むときの減衰力を上げようとすると、速く縮むときの減衰力も上がってしまうため、乗り心地が悪化して、操縦安定性と乗り心地の両方を向上させることが困難だった。新型ダンパーは、ピストン・バルブやオイルを改良することで、乗り心地と操縦安定性の両立が可能になったという。
今回試乗したカローラスポーツに搭載している1.2L直噴ターボエンジンとCVTの組み合わせは、このコラムの第26回でも、2代目オーリスに新搭載されたときに紹介しているのだが、エンジンの形式などは同じでも、だいぶ改良されていると感じた。一番大きな違いは、出力やトルクを維持しながら、2代目オーリスではハイオクガソリン仕様だったのがレギュラーガソリン仕様になったことで、燃料コストという観点では朗報だ。
やや気になるアクセルの応答性
また、車体との組み合わせもあるのでエンジンだけの改良とはいえないが、エンジン騒音がかなり抑えられているのも印象的だった。気になったCVTの特性だが、エンジン回転だけが先に上がって、それに車体の加速が遅れるような場面は少なく、CVTの嫌らしさは皆無とは言わないものの、普通の走り方ではほとんど気にならないレベルだ。
多少気になったのは、例えば高速走行時に加速が必要になってアクセルを踏み込んでから加速が立ち上がるまでの時間が、やや長く感じたことだ。今回試乗したカローラスポーツでは「エコ」「ノーマル」「スポーツ」の三つの走行モードが選べ、主にノーマルで走行していた。この遅れがターボラグなのか、CVTの特性によるものかは判別しにくかったのだが、最近のターボエンジンはターボラグをほとんど感じることがなくなっていたので、この点はやや意外だった。
新世代のトヨタ・セーフティ・センスで新たに搭載された運転支援機能「LTA(レーン・トレーシング・アシスト)」も試してみた。これは、車線の中央を維持するようにステアリング操作をアシストするもので、これと「レーダークルーズコントロール」を組み合わせれば、日産の「プロパイロット1.0」とほぼ同等の「自動運転機能」を実現できる。ただしトヨタは同機能を自動運転とは呼ばず、あくまでも「運転支援機能」と位置づけている。
動作させてみると、動作は自然で、先行車両に近づいたときのブレーキのかけ方も「じわり」という感じで不安感が少ない。ただ、注意して動作状態を観察すると、非常に細かくステアリングを左右に切って進路を制御していることが感じ取れる。これは他社のシステムでも同じなのだが、トヨタのシステムはステアリング操作の回数がやや頻繁な印象で、今後の改良で、より滑らかな動作になることを期待したい。
燃費は非常に良好だった。今回の試乗では燃費計の読みで、高速走行では22km/L、市街地走行では14km/Lを記録した。この値は、同様に排気量1.2Lの直噴ターボエンジンを搭載するドイツ・フォルクスワーゲンの「ゴルフ」や、フランス・プジョーの「308」などと比べても同等以上の値といえる。燃費の面ではCVTの有利さが出ているようだ。
全体として、新型カローラスポーツは欧州の競合車との距離を一気に縮める意欲作と感じた。乗り心地と操縦安定性を高い水準でバランスしている点、出来のいいシート、個性と先進性を感じさせる外観デザイン、十分な出力と良好な燃費を達成するパワートレーンなど、久しぶりに降りたくないと感じさせるクルマだった。
細かい点でいえば、ボディの剛性“感”、ドアハンドルの質感(欧州の競合車種はもっと太くて頼りがいのある形状をしている)、後席に座ったときにやや閉塞感を感じる点(大人2人のためのスペース自体は広々とはいえないまでも確保されている)など、欧州の競合車種に比べると改良の余地はあるものの、商品としては魅力的に仕上がっていると思う。
これまで、このクラスの国産車では、マツダ「アクセラ」やスバル「インプレッサ」が魅力度の点で一歩リードしていたが、これらに比べると新型カローラはいかつい外観に似合わぬ「癒し系」のキャラに特徴がある。普段の生活の中で、自然体で疲れを感じずに付き合えるパートナーの有力候補になりそうだ。
トヨタ自動車は、2018年1月に開催された世界最大級の家電見本市「CES 2018」で、モビリティ・サービス専用の自動運転EVのコンセプト車「e-Palette Concept」を発表しました。2020年に実証実験を開始することを目指しています。日産自動車も2018年3月に自動運転EVを使ったモビリティ・サービス「Easy Ride」の実証実験を横浜・みなとみらい地区で実施しました。トヨタや日産だけではありません。いま世界の完成車メーカーはこぞって「サービス化」に突き進んでいます。それはなぜなのでしょうか。
「EVと自動運転 クルマをどう変えるか」(岩波新書)は、当コラムの著者である技術ジャーナリストの鶴原吉郎氏が、自動車産業で「いま起こっている変化」だけでなく、流通産業や電機産業で「既に起こった変化」も踏まえて、自動車産業の将来を読み解きます。自動車産業の変化の本質はEVと自動運転が起こす「価値の革新」です。その全貌を、ぜひ書店でご確認ください。
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