それでもなぜホンダはシビックを国内で投入したのか。ホンダの執行役員で日本本部長の寺谷公良氏が強調したのは「ホンダのイメージを変えたい」ということだった。筆者のような50代の読者であれば、ホンダには戦後生まれの企業らしい若々しいスポーティなイメージを抱く人が多いのではないだろうか。ところが現在の若い世代はホンダのモータースポーツでの活躍も知らなければ、スポーティな車種を多く展開していた時代も知らない。「ミニバンと軽自動車のメーカー」というイメージが強まっているというのだ。

 これはちょっと筆者にとっても驚きだったので、本当かと思って社会人1年目の息子に聞いてみたが、ホンダのクルマについて尋ねても「N-BOXだったら知ってるけど」という返事だった。なるほど、確かにホンダのスポーティなイメージは、若い世代では失われているのかもしれない。だから、今回の国内市場への新型シビックの導入はそろばんづくというよりも「ホンダらしいクルマができたので、ぜひ国内にも導入したい」という「意気込み」が先行してのことのようだ。

 確かに今回のシビックはホンダの「意気込み」を感じられるモデルといえる。外観デザインは、保守的だった先代、先々代に比べてかなりアグレッシブなものになった。切れ長のヘッドランプや、複雑な立体形状をしたフロントグリル、うねるような曲線を描くウエストラインなどは、ちょっとデコラティブ過ぎるとは思うけれど、このくらいの存在感が、主戦場の米国のように大きなクルマがひしめく中では必要なのかもしれない。

 先代シビックは発売直後に、米国の消費者団体が発行する専門誌「コンシューマー・レポート」の小型セダンの評価で全12車種のうち11位に沈み、韓国Hyundai Motors社の「Elantra」が首位になったことも相まって、業界内で大きな話題となった。その後、シビックは外観の変更のみならず、インストルメントパネルを全面的にデザインし直すなど、通常の部分改良の枠を超えた大幅な改良を迫られた。先代シビックは2011年の発売で、開発中にリーマン・ショックに見舞われたこともあり「コスト削減の影響が出てしまった」(新型シビックの開発責任者である本田技術研究所・主任研究員の松本英樹氏)という。この反省からか、外観においても内装においても、先代シビックに比べると一クラス上級になったという印象を受ける。

新型シビックのインストルメントパネル。質感が大幅に向上した(写真:ホンダ)
新型シビックのインストルメントパネル。質感が大幅に向上した(写真:ホンダ)

新世代プラットフォームを採用

 一方、メカニズム的に興味を引いたのは、このシビックからプラットフォームを一新するとともに、先代ではハッチバック系とセダン系の車種で異なっていたプラットフォームを、今回のモデルでは統一したことだ。先代モデルまでハッチバック系の車種の生産は、欧州向け「Jazz(日本名フィット)」の生産も担当する英国工場が担っていた。このため先代シビックのハッチバックモデルは燃料タンクを前席の下に配置した、フィットと同じセンタータンクレイアウトのプラットフォームを用いていた。

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