駆動輪に荷重をかける

 FFレイアウトやセンターピラーレスの設計は、N-VANが初めてというわけではもちろんなく、その意味でのオリジナリティはない。しかし、これらを商用車に採用するというのはこれまでの軽バンの設計では考えられなかった。

 これまでの軽バンではほとんどの場合、運転席の下や荷室の下にエンジンを配置して後輪を駆動するレイアウトを採用していた。ダイハツやスズキは運転席の下、ホンダの従来のアクティバンが荷室の下(後輪の前)、そしてかつてのスバルサンバーは同じ荷室の下でも後輪よりも後ろ、という具合である。こういうレイアウトを採用していたのは、商用車の場合「トラクション性能」が重視されるからだ。

 トラクションとは、駆動輪と路面の間で生じる摩擦力を指す。これが小さいと、いくら駆動輪に駆動力をかけても、路面でタイヤがスリップしてしまい、クルマが前に進まない。後輪を駆動するレイアウトの場合、積む荷物が重くなるほど、後輪にかかる荷重が大きくなり、タイヤと路面の間の摩擦力が増して駆動力が有効に路面に伝わる。これが、FFになってしまうと、駆動力は前輪に伝わるので、荷物が増えた場合のトラクションが十分か、ということが不安視されてしまうわけだ。

 そして、エンジンを床下にレイアウトするもう一つの利点は、荷室の長さを確保しやすいことである。エンジンが車体の前部にないので、運転席を車体の前端に配置でき、荷室を長くできる。軽バンの荷室に要求される代表的な指標として「コンパネ」をどのくらい積めるか、というのがあるという。このコンパネというのは建築現場でコンクリートを打設する際の型枠に使う合板パネルのことで、サイズは概ね長さ1800×幅900mm程度だ。これを積める長さの荷室を確保するには、荷室の下にエンジンを搭載するレイアウトを採用するしかなかった。例えば代表的な軽バンであるダイハツ工業の「ハイゼットカーゴ」の荷室寸法は長さ1860×幅1315(2人乗車時)×1115(標準ルーフ)mmで、コンパネを搭載できるスペースを確保している。

人と荷物を両方重視

 一方、センターピラーレスはなぜこれまで商用車に採用されなかったのか。商用車の車体には乗用車以上の耐久性や信頼性が要求され、しかも乗用車よりも大きな荷重に耐えなければならない。センターピラーのない車体構造はそのぶん車体の強度が落ちるため、耐久性や信頼性の面で不利だ。逆に、これを補強しようとすれば、そのぶん重量がかさみ、燃費の悪化やコストの上昇につながる。

 ダイハツ工業の背高ワゴン「タント」のように、乗用車系の車種で助手席側の乗降性を向上させるためにセンターピラーレスの構造を採用した軽自動車はあるが、商用車でセンターピラーレスというのは採用例がない。この「FFレイアウト」と「センターピラーレス」という、軽バンではいわば「常識破り」の構造を、N-VANではなぜ採用したのだろうか。

 「従来モデルのアクティバンが登場した19年前、軽バンで重視されるのはどれだけ荷物を運べるか、という性能であり、運転する人間のことは二の次だった」と語るのは会場で取材した担当デザイナーだ。ところが今回N-VANの開発のために、改めて軽バンが使われる現場でヒアリングして明らかになったのは、軽バンの使われ方が19年前とは様変わりしていることだった。ネイルサロンやペットをトリムするサロンとして使ったり、弁当販売や過疎地の移動スーパーといった移動店舗に活用したり、宅配業者が利用するなど、使われ方が大幅に多様化していたのだ。併せて、運転する人には女性や高齢者も増えていた。