いよいよそう来たか。そのニュースを聞いたときの最初の感想がそれだ。本題に入る前に断っておくと、今回のネタは極めてマニアックなので、予め覚悟いただきたい。そのネタとは、自動運転車のセンサーの話だ。

 「そのニュース」というのは、8月2日に報じられた「独ZFが、車載センサーメーカーの独イベオ・オートモーティブ・システムズに40%出資する」というものだ。このニュースは、実は国内のメディアではほとんど報じられなかったし、ZFもイベオも、そんな会社知らないよ、という読者が大半かもしれない。しかしこのニュースは、現在の自動車業界の状況を考えるうえで、極めてシンボリックな出来事だったのである。

独イベオ・オートモーティブ・システムズのライダー(レーザーレーダー)「SCALA B2」(写真:イベオ・オートモーティブ・システムズ)

ライダーって何?

 このニュースを知るためのキーワードは「ライダー」である。ライダーと言えば「仮面ライダー」を思い出してしまうのは昭和世代の悲しい性だが、今回紹介するライダーは綴りが違う。仮面ライダーのライダーは「Rider」だが、今回のライダーは「LiDAR」と書く場合が多い。これは「Light Detection and Ranging」の略語で、直訳すれば「光を使った物体検知と測距」ということになる。平たくいえば、ライダーとはレーザー光を使ったレーダー、「レーザーレーダー」のことだ。

 通常、レーダーといえば電波を使う。電波を発射し、それが物体に当たって跳ね返ってくるまでの時間を計測して、物体が存在する方向や、物体までの距離を測定する。ライダーは電波の代わりにレーザー光を使って物体の検知や、物体までの距離測定をする。なぜ電波でなく、レーザー光を使うのか。それは、レーザー光はビームを細く絞り込むことができるので、電波よりもはるかに精密に、物体の存在する角度や形状を検知できるからだ。

TRW買収で欠けていたピース

 ZFはドイツの大手自動車部品メーカーで、独ボッシュや独コンチネンタル・オートモーティブと並ぶ、いわゆる「メガサプライヤー」の一角である。世界のメガサプライヤーの売り上げは、2014年のデータ(マークラインズ調べ)で、1位がボッシュ、2位がデンソー、3位がオーストリアのマグナ・インターナショナル、4位がコンチネンタルで、ZFは9位だった。

 ところが、2014年9月にZFは、米国の自動車部品大手で世界11位のTRWオートモーティブの買収を発表。両社の売上の合計で、ZFはデンソーを抜いて世界第2位のメガサプライヤーに浮上した。売上規模で近いTRWの買収は、ZFにとって乾坤一擲(けんこんいってき)の打ち手だったに違いない。ZFは、変速機や動力伝達部品など、いわゆるメカ的な部品では非常に強いメーカーだが、最近の先進運転支援システム(ADAS)や自動運転などに向けた製品は手薄だった。一方で、TRWはミリ波レーダーやカメラなど、ADASや自動運転向けの部品に強い。TRWを買収することで、この分野での遅れを一気に取り戻すのがZFの狙いだった。しかし、この買収で欠けているピースが1つあった。それが今回のテーマであるライダーだ。