しかし、である。もちろんドライバーが安全確保の最終責任を負っていることを承知のうえで言うのだが、現在の運転支援システムで「システムの状態を絶えず監視し、安全を確保する」というドライバーの義務を果たすことは、じつはそれほど容易なことではない。テスラでいえば、オートパイロットの作動状況はメーター内のディスプレーに表示され、カメラが車線を認識しているかどうか、前方の車両を認識しているかどうか、あるいは隣の車線の車両を認識しているかどうかなどについて、ドライバーは知ることができる。ただし、今回のようなケースで、ドライバーがクルマの動作状況を監視していれば事故を防げたかどうかを考えると、疑問符をつけざるを得ない。

テスラ・モデルSのメーター内のディスプレー。車線を認識しているかどうか、先行車両を認識しているかどうかなどを表示する。
テスラ・モデルSのメーター内のディスプレー。車線を認識しているかどうか、先行車両を認識しているかどうかなどを表示する。

 というのも、いくらドライバーに監視の義務があるとはいえ、メーター内のディスプレーと、外の景色を絶えず見比べながら、間違いなくシステムが作動しているかどうかを監視し続けるというのはドライバーにとってかなりの負担であり、現実的ではないからだ。そんなことをするくらいなら、自分で運転するよ、という読者も多いだろう。せっかく運転支援システムに運転を任せているのだから、景色を楽しむ余裕くらいあっていいはずだ、と考えてもばちは当たるまい。となれば、本来はクルマ自身がシステムの限界を自覚し、システムの限界を超える状況になったら、しかるべき余裕を確保したうえで人間にそれを知らせ、人間に運転を明け渡す、というほうが現実的だ。

 そのときに人間がスムーズに運転を代わるためには、やはりステアリングから手を離していてはダメで、軽く添えているだけにせよ、手を触れている必要があるだろう。すでにテスラ以外のメーカーの運転支援システムでは、10~15秒程度ステアリングから手を離していると、システムが解除される設定になっている。

 これに対して、テスラのオートパイロットは、この連載の第46回で紹介したように、ステアリングから手を離しても長時間にわたってシステムは解除されない。米国の「コンシューマー・レポート」のウエブサイトは7月14日、「Tesla's Autopilot: Too Much Autonomy Too Soon」という記事を掲載し、この中で、ステアリングに手を離したらシステムが解除される機能を盛り込むように求めているが、現段階ではその判断は妥当だろうと筆者は考える。

 運転支援システムの利便性と安全性をどのように両立していくべきか。その最新の例として、次回は日産が7月13日に発表した運転支援システム「プロパイロット1.0」を取り上げ、その考え方を紹介したい。

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。

この記事はシリーズ「クルマのうんテク」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。