レーダーにはレーザー光を使う、いわゆるLiDAR(ライダー)と呼ばれるタイプもあるのだが、ライダーやカメラは、物体の検知に光を使うので、雨や雪などの天候では光が遮られ、測定性能が低下する。これに対しミリ波は、雨や雪の影響を全く受けないわけではないのだが、光に比べるとその影響は少なく、また空気中での減衰も光より少ないので遠くの物体までの距離を測定するのに適している。なので、まさに今回のような事故を避けるためにあるようなセンサーなのだが、ミリ波レーダーはどうして役に立たなかったのか。それが筆者の疑問だった。

クルマの側面は検知できない

 そんな筆者の疑問を解いてくれたのが、自動運転車のセンサー技術に詳しいエンジニアから聞いた話だった。そのエンジニアによれば、今回の事件では「現在の運転支援システムが抱える弱点を見事なまでに突かれた」という。それはどういう意味なのか。

 まずカメラについてだが、同エンジニアは「太陽の光の反射が弱かったとしても、テスラ車はトレーラーを認識できなかった可能性が高い」という。その理由は、側面からみた車両を車両だと認識するアルゴリズムが、テスラ車を含む現代のほとんどの運転支援システムには組み込まれていないからだ。もともと現在の運転支援システムは、クルマの追突を防ぐための自動ブレーキの機能から発展したものである。このため、後ろから見たクルマを認識する機能を重視している。次いで、歩行者を認識する機能、さらには自転車を認識する機能などを加える形で進化してきた。

 こうした車両後面や歩行者、自転車を認識する機能は、現在商品化されている運転支援システムでは「パターンマッチング」と呼ばれる技術で実現するのが主流だ。これは、例えば人間を認識する場合であれば、人間の形状の特徴を「辞書」としてシステムに内蔵しておき、カメラが捉えた画像をこの辞書と照らし合わせ、共通するかどうかで人間かどうかを判断するという手法だ。

 もちろん、実際のカメラで撮影した画像と「辞書」に登録された内容が完全に一致することはありえないから、どの程度の誤差を許容するかも併せて決めておく。それでも、歩いている人、走っている人、カバンを持っている人など、同じ歩行者といっても実際の形状は千差万別だから、「辞書」には何百、何千という歩行者の形状のパターンが記憶されている。歩行者かどうかを判別するとき、運転支援システムの内部では、いまカメラに映っている画像が歩行者かどうかを判別するために、瞬時に多数の照合作業が行われているわけだ。

 同様の作業は、車両の認識や、自転車の認識でも同様に行われている。ところが、車両を横から見たところを車両かどうかを判別する技術は、現在商品化されている運転支援システムでは搭載されていない。それは照合作業があまりにも膨大になってしまうためだ。というのも、車両を後ろから見た形状に比べて、車両を横からみた形状のバリエーションは非常に多いため、そもそも「辞書」を作る作業も大変なら、「辞書」と照合する作業も膨大になり、市販車に搭載できるレベルのコストのシステムでは、実現が難しいのが実情である。つまり、横から見たトレーラーは、現在の運転支援システムでは、そもそも認識の対象から外れているのである。これが、背景がたとえ明るい空でなくても、カメラがトレーラーを認識できなかった可能性が高い理由だ。

レーダーで検知できなかった訳

 ではカメラがダメでも、ミリ波レーダーでトレーラーを捉えられなかったのはなぜか? それは、現在のレーダーでは大面積の物体からの反射波を障害物だと認識しないように、信号が処理されているからである。トレーラーの側面は、障害物だと捉えるには大きすぎたのだ。意味が分からないという読者も多いだろう。小さすぎて認識できないというのなら分かるが、大きい物体なら認識も楽だろうと考えるのが自然だからだ。なぜ大きな物体からの反射波を認識しないようにしなければならないのか?

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