今回死亡事故を起こした米テスラ・モーターズの「モデルS」(写真:テスラ・モーターズ)

 殺人の罪を犯したムルソーが、裁判でその動機を聞かれ、「太陽が眩しかったから」とこたえる――。フランスのノーベル賞作家アルベール・カミュの代表作の一つである「異邦人」の有名な場面だ。殺人を太陽のせいにするこの小説は、「不条理」を表現した作品だと言われる。

 すでに旧聞に属するが、5月7日に、米テスラ・モーターズの「モデルS」が、運転支援システム「オートパイロット」の作動中に、高速道路を横切ろうとした大型トレーラーに衝突して運転者が死亡する事故を起こした。オートパイロットの作動中に運転者が死亡する事故を起こしたのは今回が初めてだ。その原因としてテスラは「トレーラーの白色の側面が、明るい空を背景としていたために(against brightly lit sky)」人間もオートパイロットもトレーラーを認識することができず、ブレーキを作動させなかったことを挙げている。

 オートパイロットは、「自動操縦」というその名とは裏腹に、自動運転システムではなく、ドライバーを支援するシステムと同社は位置づけている。安全確保の義務はドライバーにあり、システムが安全に動作しているかどうかを監視するのもドライバーの役目だ。しかも、事故車のドライバーが走行中にDVDを鑑賞していた疑惑も浮上しており、テスラに対する批判的な論調は目立たない。ただ、オートパイロットがトレーラーを認識できなかった理由を空の明るさのせいにするテスラの説明に関しては、筆者は「不条理」だと感じた。

高速道路なのにトレーラーが横断?

 そもそも今回の事故は不可解なことが多い。最初に感じた疑問は、今回事故を起こしたテスラ車は高速道路を走っていたはずなのに、なぜトレーラーが道を横切るのか? というものだった。そこで米国のメディアの報道を調べてみると、日本のニュースで高速道路と翻訳されていたのはHighwayという言葉だった。これは日本語でいう国道に近いニュアンスで、日本語で一般にいう信号や交差点のない高速道路はFreewayと呼ばれることが多い。国道であれば、交差点があっても驚くには当たらない。日本と同様に米国の道路でも左折車(米国は右側通行なので、左折車は対向車線をまたぐことになる)よりも直進車が優先されるので、直進してくるクルマとの安全な距離を見誤ったトレーラーにも一定の責任はあるはずだ。

事故の状況。トレーラーは左折しようとして高速道路を横断しているとき、反対車線から直進してきたテスラ車が側面に衝突した。(グーグルの写真を基に筆者が作製)

 ところで、筆者がなぜ「不条理」と感じたかといえば、テスラのオートパイロットは、カメラだけでなく、ミリ波レーダーも搭載しているからだ。確かに、太陽の光が強くて、それが白いトレーラーの側面に反射したら、人間もカメラも眩しくて、トレーラーを見つけにくいかもしれないとは思う。しかし、太陽の眩しさは、ミリ波レーダーには関係ない。ミリ波レーダーは、ミリ波と呼ばれる波長の短い電波を発射して、物体に当たって戻ってくるまでの時間を測定することで、物体の有無や、物体との距離を測定するセンサーだからだ。