一方、技術的な観点から今回のレベル3の自動運転技術で注目できるのは、高性能LiDAR(レーザーレーダー)を搭載したことだ。LiDARについてはこのコラムでも第75回で紹介しているが、電波を使って周囲の物体の位置や物体との距離を検知するミリ波レーダーと異なり、レーザー光を物体に照射し、その反射光から物体の位置や物体との距離を計測するセンサーだ。

新型A8が積んでいるセンサー群。LiDARはフロントバンパー部分に内蔵されている(写真:アウディ)
新型A8が積んでいるセンサー群。LiDARはフロントバンパー部分に内蔵されている(写真:アウディ)
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 レーザー光は電波よりも指向性が高く、ビームを細く絞り込むことができるので、ミリ波レーダーよりも格段に物体の位置を精度よく検知することができる。反面、物体の検知に光を使うので、電波を使うミリ波レーダーに比べて雨や雪など悪天候の影響を受けやすいという難点がある。従来の自動運転技術では、カメラだけ、あるいはミリ波レーダーとカメラを組み合わせる手法が多かったが、これにLiDARを組み合わせることで、より信頼性の高いシステムを構築できる。

 アウディが今回搭載したLiDARは、仏ヴァレオ製の「SCALA」というタイプだ。これは、内部に回転する鏡を搭載しており、レーザー光をこの鏡で反射することで水平方向に3.2度、垂直方向に145度スキャンする。LiDARから発射された光は、物体に当たって反射し、その光をLiDARに内蔵した受光素子で検知し、光を発射してから戻ってくるまでの時間と、光が反射してきた方向から、物体との距離と物体の方向を検知するという原理だ。

LiDARの構造。左上のレーザー素子から右方向に出た光を回転する鏡に反射させて前方に発射し、戻ってきた光を鏡に反射させて受光素子(左下)で検知する(写真:アウディ)
LiDARの構造。左上のレーザー素子から右方向に出た光を回転する鏡に反射させて前方に発射し、戻ってきた光を鏡に反射させて受光素子(左下)で検知する(写真:アウディ)
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 LiDARはより小型化・低コスト化することが求められており、この「回転する鏡」というメカ部分がその妨げになっている。このため、この鏡を半導体プロセスで製造する微小な鏡に置き換えたり、まったく鏡なしでレーザー光をスキャンする方式や、検知領域全体にレーザー光を一度に照射する方法などが検討されているが、まだ実用化には時間がかかる。

 ヴァレオのLiDARは機構的な新味はないのだが、こうした高性能なLiDARは今後、レベル4やレベル5といったより高度な自動運転や、高速道路だけでなく、一般道路での自動運転には不可欠とされており、量産車に搭載して市場で実際に使われ、その信頼性や耐久性が評価される意味は大きい。アウディは他社に先駆けてLiDARの使いこなしのノウハウを蓄積することになる。

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