以前から、自動運転のレベル3については、その是非が議論されてきた。通常は人間がシステムや外部環境を監視する義務がないのに、車両が対応できないような状況になって、人間に運転を代わってくれるように要求した場合、人間が速やかに運転を引き受けなくてはならないという状況は、非現実的ではないか、というのである。実際、人間が運転をクルマに任せ、本を読んだり、コーヒーを飲んだりしてくつろいでいるときに、いきなりクルマに運転を代わってくれと言われたら、それに即座に対応するのは難しいだろう。
今回の速度は60km/h以下、ドライバーがしてもいい運転以外の作業は車載ディスプレイの画面でできること、という制限は、いずれもクルマから人間へのスムーズな運転の移譲を想定したものだ。アウディはクルマから人間への運転の移譲に要する時間を10秒程度と想定している。10秒というと短いように思えるが、60km/hで走行している場合、クルマが166mの距離を走る時間だ。現在の自動運転システムは監視している危険は200~250m先程度までなので、これ以上速度が上がると、人間への運転の移譲が間に合わない恐れがある。
実際には、ドイツの高速道路であるアウトバーンで速度60km/h以下で走っているということは、渋滞走行していることを意味しており、これよりも大幅に低い速度で走っているケースが大半だろ想定しているのだろう。また、人間が車載ディスプレイを見ていれば、危険が迫っていることを、クルマが人間に確実に伝えることができる。高速道路の渋滞走行中であれば、基本的には追突しないかどうかだけを配慮していればよく、人間が監視していなくても危険度は低いとアウディは判断したのだろう。
高性能LiDARを搭載
すでにこのコラムの第85回でお伝えしたように、ホンダも2020年に実用化する車両で、渋滞時のレベル3の自動運転技術の実用化を目指している。これに比べるとアウディの実用化時期は2年ほど早い。また高速道路の単一車線におけるステアリング、アクセル、ブレーキの操作を自動化したレベル2の自動運転技術は、すでに国内メーカーでは日産自動車が実用化し、この7月に部分改良したスバルの「レヴォーグ」が改良版「アイサイト」でも実現しているが、トヨタ自動車は、2017年秋に発売を予定するレクサスLSで同様の機能を同社としては初めて実用化する予定だ。
海外の高級車メーカーでは、アウディ、ダイムラー、BMWのドイツ御三家は同様の機能をすでに搭載済みで、トヨタの姿勢は慎重に見える。さらにトヨタはレベル3機能の搭載時期について明示しておらず、レクサスLSはほぼ同時期に発売されるA8に安全装備では差をつけられている格好だ。
今回アウディが実用化するレベル3の自動運転技術は非常に限定されたものであり、実用的に意味があるのかという声もあるが、筆者は一定の価値はあると思う。というのも、現在の自動運転機能では、渋滞時の操作で煩わしさを感じるからだ。現在の自動運転機能では通常、停止してから発進するのに、3秒程度までの停止なら自動的に再発進してくれるが、それ以上の停止時間になると、アクセルを軽く踏むか、スイッチを押すなどの操作が必要になる。これが度重なると、けっこう面倒に感じるようになる。今回アウディが実用化する技術では、この渋滞再発進の操作が自動化されるので、高速道路上でのドライバーの操作がほとんどなくなり、運転の負担は軽減されるだろう。
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