今回の話題は米アーケテス・パワー社の「対向ピストンエンジン」。1つのシリンダー内で2つのピストンが向かい合わせて動くのが特徴。50%を超える高い熱効率を実現する

 前回のこのコラムで、日産のバイオ燃料を使った燃料電池車について取り上げた。そしてそのとき、燃料電池車が普及するかどうかは、最終的にエンジンとの効率競争で決まると書いた。燃料電池車の総合効率(燃料の製造段階から車両での消費段階までを考慮した全体の効率)を考えると、おおざっぱに言って、燃料である水素の製造段階の効率が70%程度(最も低コストな天然ガスから製造する場合)、車両の効率が60%程度なので、0.7×0.6で約4割程度になる。一方で、軽油やガソリンなどの燃料の製造段階での効率は85%程度だから、車両での効率が50%程度あれば、燃料電池車とほぼ同等の総合効率が実現できる。

 現在、トヨタのハイブリッド車「プリウス」のガソリンエンジンの最高効率が約40%で、ガソリンエンジンでは世界トップレベルの値を実現している。一方のディーゼルエンジンでも42~43%程度が乗用車用では最高水準になる。この値がもし50%になれば、車両効率でも50%を実現する可能性が出てくる。ではエンジンで効率50%を実現できる可能性はあるのか?

 自動車用のエンジンで熱効率50%を実現するというのは、かなり高いハードルである。そもそも、熱機関では大規模なシステムのほうが効率を上げるのに有利だ。熱機関で最も効率が高いものの1つは、LNG(液化天然ガス)コンバインドサイクルを採用した火力発電所で、効率は約60%に達するが、これは、まず天然ガスを燃焼させてガスタービンを回し、その排熱で蒸気を作って蒸気タービンを回す2段階のプロセスでエネルギーを回収する複雑なシステムだ。とても自動車に搭載できる代物ではない。それに、東京電力全体の火力発電所の平均効率を見ると47%程度で、50%を下回る。もしエンジンで50%の熱効率を実現できれば、火力発電の平均を上回る効率を実現できることになる。

昔からあった構造

 実は、エンジンでも熱効率50%以上を実現している例はある。世の中にある、いわゆるレシプロエンジン(シリンダー内をピストンが上下することで駆動力を得るシステム)で最も効率が高いのは船舶用のディーゼルエンジンで、すでに50%以上の効率が実現されている。ではなぜ乗用車やトラックに使われているディーゼルエンジンで、船舶と同様の高い熱効率を実現できないか。

 その理由の1つは冷却損失差だ。面積は長さの2乗に比例し、体積は3乗に比例することから分かるように、エンジンの排気量が大きくなると、相対的に排気量に対するシリンダーや燃焼室の表面積は小さくなる。つまり、冷却される面が相対的に小さくなるわけで、そこから逃げる熱が減らせる。

 船舶用エンジンは、大きなものだと、高さ15m、長さ24mというビル並みの大きさで、排気量は2万Lと、乗用車用の1万倍に達する。小さいエンジンは、効率向上には不利なのだ。加えて、船舶用ディーゼルエンジンの場合、回転数が1分間に100回程度(100rpm)と、自動車用が数千rpmであるのに対して極端に低い。これにより摩擦損失が抑えられる。