不明を恥じるというのはこのことだろう。話には聞いていたが、ここまでとは思わなかった。「自動運転車としてのゴルフカートの活用」の話である。筆者はゴルフをしないので、そもそもゴルフカートがゴルフ場内を運転手なしに、自動で走っているということも知らなかったのだが、ゴルフカートを活用した「新たなモビリティを模索する活動」が全国各地に広がっていることも今回初めて知ったような次第だ。いやはや、勉強させていただきました。
筆者がそのことを知ったのが、IHSマークイットが日本で開催したカンファレンスである。同社は世界でも屈指の調査・予測会社で、2016年3月に米国の大手調査会社のIHSと、英国の金融調査会社のマークイットが合併して誕生した。IHS自体が、米CSMワールドワイドや、米R.L.ポークといった自動車分野の調査会社を吸収合併しながら巨大化してきた企業で、自動車分野における将来予測では世界最大の企業といっていいだろう。
そのIHSマークイットはこれまで毎年3月に、主にクライアント向けに世界の自動車産業の動向を解説するカンファレンスを開催してきたのだが、3年前から、これとは別に自動運転や電気自動車(EV)、コネクテッド化といった新しい技術が、自動車産業を今後どう変えていくのかにテーマを絞ったエグゼクティブ・ブリーフィングを開催している。第4回となることしも6月12日に「自動車産業のパラダイムシフト―自動運転と電動化が再定義するモビリティ」と題して開催された。
同社のエグゼクティブ・ブリーフィングは年々規模が拡大するとともにプログラムも充実し、今回のブリーフィングでは多様な講師の講演を聞くことができた。筆者自身もパネルディスカッションのパネラーとして末席を汚させていただいたのだが、筆者が特に興味深かった内容を紹介しよう。すべての講演者を取り上げているわけではないのでご承知おきいただきたい。
「自動運転車の免許証」へ一歩
最初に登壇したのは経済産業省製造産業局自動車課課長の河野太志氏だ。同氏の話の内容は、車両の電動化、および知能化の世界の動向と、それに対応した政策立案および実行の現状についての解説だったのだが、同氏が講演の中で盛んに強調していたのが「日本は自動運転や電動化で遅れていない」ということだった。
経産省としても、自動車産業を取り巻く変化に対応し、自動車政策の在り方について戦略的に議論するため、経済産業大臣主催の「自動車新時代戦略会議」を新たに発足し、4月18日に第1回会議を開催したことを説明した。また、経産省として重要視しているのが「競争と協調の最適化」であり、これまでにも自動運転用の3次元地図や、内燃機関の基礎研究などを協調領域として、地図作製会社のダイナミックマップ基盤企画などを後押ししてきた。最近の動きとして興味深かったのが、自動走行領域での新たな協調領域として「安全性評価」を定めたことだ。
ウーバーの死亡事故について取り上げたこのコラムの第105回で、「自動運転車の免許証」について触れた。これは公道を走らせる自動運転車に、国家がシミュレーションによる自動運転プログラムの「バーチャルテスト」と、実験車両を使った「実技試験」を実施し、これに合格した車両だけを公道走行可能にするという構想だ。今回の講演で河野氏が触れた「安全性評価」のコンセプトはこれに近い。
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