惰行法でも計測していたが…

 だからといってスズキが惰行法でデータを取っていなかったわけではない。会見でも同社が強調していたのは、今回対象の16車種すべてにおいて、惰行法でもデータを取っていたということだ。通常は、その惰行法で測定したデータのばらつきの平均を取って、最終的な走行抵抗を求める。しかし会見では、ばらつきの多いデータの平均を取るよりも、より安定してデータを測定できる個別部品の測定データの積み上げで算出するほうを「ついつい使ってしまったのではないか」(鈴木俊宏社長)という。

今回は走行抵抗のデータを参照しながらも、その平均ではなく、個別の部品の測定データを積み上げて算出した走行抵抗データを国土交通省への申請値としていた(図はイメージで実際のデータとは異なる)

 惰行法で測定していたのに、その値を使わず、個別部品の測定データの積み上げデータを国土交通省への申請値として使ったのには何か意図があるのではないか。会見でもそのあたりに質問が集中していたが、会見したスズキの経営陣はそれを繰り返し否定していた。

 スズキは世界的に燃費基準が強化され始めた2000年以降、2006年に車体の空気抵抗を測定するための風洞を設置したのを皮切りに、タイヤ単体、変速機単体の抵抗を測定するための装置を導入していった。これらの装置では、実験室の中で、外の環境変化の影響を受けず、安定してデータを取ることができる。

 開発の段階では、これらの装置で個別の部品の抵抗を評価しながら、車両に組み立てた場合の走行抵抗を計算し、目標値に達しているかどうかを確認しながら作業を進めていく。従って、車両を走行実験する段階では、走行抵抗がどの程度になるか、かなりの精度で開発陣には分かっているはずなのだ。

 ところが、スズキのテストコース特有の事情もあり、実車走行による走行抵抗のデータのばらつきが大きく、そのまま平均を取った値が、むしろ真の値から乖離していると考えられる場合、「不安定な作業の中で、より的確なデータを得る」(鈴木社長)のを目的として、個別の部品の測定データの積み上げで算出した走行抵抗データを使いたいと考えるのは、エンジニアの心理としては自然だろう。

 テストコースの状況が厳しいとはいえ、ばらつきの多い実車走行による測定で他社は走行抵抗を測っているではないか、という批判はその通りだ。そういった批判はスズキも真摯に受け止めており、今回の違反を機にテストコースを改修し、防風壁の設置などを進める方針だ。ただ「燃費を良く見せようという意図はなかった」という言い分は信じていいと筆者は思っている。それは、第3者による実車テストの結果からも明らかだ。

 例えば日経トレンディは、2013年8月号で今回の燃費不正事件を起こした三菱自動車の「ekワゴン」の実燃費を評価した記事を掲載している。このときekワゴンは同時に比較した4車種の中でJC08モード燃費29.2kmと最も優れていたにもかかわらず、実燃費では15.6km/Lと最下位に沈んだ。

 一方でJC08モードが28.8km/Lとekワゴン、ダイハツ工業の「ムーヴ」(29.0km/L)に次ぐ3位だったスズキの「ワゴンR」が、実燃費では21.9km/Lと2位以下に大きく差を付けて1位の成績を収めた。実燃費の投稿サイト「e燃費」によるデータを見ても、スズキのワゴンRや、アルトは優秀な値を記録している。このことは、スズキのクルマのカタログ燃費と実燃費の差が小さいことを示している。今回のスズキの行為は、法令違反ではあるが、三菱自動車の行為とは区別して考えていいだろう。