ばらつくことが宿命の惰行法

 このスズキの言い分を理解するには、走行抵抗を測定するための「惰行法」についていま一度、理解する必要があるだろう。惰行法による走行抵抗の測定では、クルマをある一定の速度まで加速し、所定の速度になったらギアをニュートラルに入れ、惰行、すなわち惰性で走行させる。惰性で走行するクルマは当然のことながらだんだん速度が落ちてくる。この速度の落ち方を測定することで、走行抵抗を求める手法が惰行法である。

 これもコラムの第52回で説明したことだが、走行抵抗は大きく分けて「転がり抵抗」と「空気抵抗」の二つで構成される。転がり抵抗は、タイヤと路面の間で生じる抵抗で、この抵抗値は速度にかかわらず一定だが、もう一つの空気抵抗はクルマの速度の二乗で増加するので、走行抵抗は、速度に対する二次曲線になる。

走行抵抗は大きく分けて、速度が上がっても一定の転がり抵抗と、速度の二乗で増加する空気抵抗がある

 この二次曲線を引くために、JIS(日本工業規格)の規定では最低4点のデータを測定することになっているが、通常は時速20kmから90kmまで、10km刻みで8点の速度での走行抵抗を計測することになっているようだ。例えば時速90kmの走行抵抗を測定するには、時速95kmから惰性走行を開始し、時速85kmまで速度が落ちる時間を測ることで走行抵抗を計算する。他の速度での走行抵抗も同様に時速が10km落ちるのにかかる時間を測って求めるのだが、転がり抵抗はともかく、やっかいなのが空気抵抗だ。

 先ほども説明したように、空気抵抗は速度の二乗に比例するのだから、高速になるほど、走行抵抗に占める空気抵抗の比率は増える。ところが空気抵抗は、風向きに大きく左右される。当たり前のことだが、向かい風なら空気抵抗は増し、追い風なら減る。この風向きの影響を低減するために、JISの規定では、実験の条件として、平均風速は秒速5m以下とし,このうち横風は秒速3m以下と規定されている。

 さらに、向かい風、追い風の影響を相殺するため、同じコースを最低3回往復して測定することになっている。実際には、統計的になばらつきの基準が設けられていて、ばらつきがこの基準以下になるまで、実験を繰り返すことになっている。このばらつきが基準以下になるまで実験を繰り返すことが、スズキには困難だったようだ。その理由が先に挙げたように、同社が所有する相良テストコースが海に近く、しかも丘の上にあることから風の影響を著しく受けることだ。また、会見での同社の発言によれば、このコースの横に、建物が縦横に並んでいることも、コースを走るクルマに与える風の影響を複雑にしていたようだ。