BセグメントやCセグメントといった量産車種のプラットフォーム開発を日産に任せられるようになれば、三菱は、アジアで同社が高い競争力を誇るピックアップトラックの開発や、現在はモデルが古くなっている「パジェロ」のような大型SUVの開発に力が割けるようになる。ゴーン体制の下で日産が「フェアレディZ」や「GT-R」のような象徴的なスポーツ車を復活させたように、惜しまれながら生産を終えた「ランサーエボリューション」を復活させる余力も生まれるかもしれない。

最小のリスクで「底値買い」

 プラットフォーム共通化のほかにも、世界の生産・販売拠点の相互活用など、販売面、開発面で両社のシナジー効果は大きい。ゴーン社長自身「既にわかっているだけでも、22億ドル(2370億円)もの出資を正当化できる十分なシナジー効果が期待できる」と語ったと伝えられている。恐らくシナジーはこれにとどまらないはずだ。これまでに日産は、三菱との関係を通して様々な可能性について検討してきたとゴーン社長は記者会見で語っていた。こうした下準備があったから、今回のような電撃的な提携を決断できたのだろう。

 この2370億円という出資額の決め方にも筆者は刮目した。今回の提携では三菱が第三者割当増資する株式を引き受けるのだが、33.4%の株主比率になるのに必要な5億660万株の三菱自動車株を、一株当たり468円52銭で取得するのだが、この価格は、2016年4月21日~2016年5月11日までの期間の出来高加重平均なのだ。三菱が今回の不正を発表した日の翌日から、今回の提携発表の前日までの株価の平均で、日産は三菱株を取得するのである。

 この事件が発覚するまで、三菱の株価は概ね800円を超える水準で推移していた。日産の取得額はその6割程度に過ぎず、しかも提携が発表された5月12日の株価は575円のストップ高を付けた。日産はまさに最小のリスクで三菱の株式を「底値買い」した。投資額の約2割を、すでに1日で取り戻した計算になる。

 しかも、こうした危機的な状況で手を差し伸べたからこそ、三菱関係者の反発を招くこともなく、むしろ非常に好意的に受け止められている。「底値で手に入れながら、相手から感謝される」という離れ業をゴーン社長はやってのけた。

 けなしているのではない。むしろその逆である。こうした提携での最大のポイントは「救済される側の心理」だ。いかに相手のモチベーションを保ちつつ、征服者と被征服者ではないウイン・ウインの関係を築いていくか。そこに、自動車業界では数少ない提携の成功例と言われるルノーと日産の関係を築いた「ゴーン・マジック」の真骨頂があると筆者は思っている。

 筆者はこれからの三菱の再建を楽観視している。この連載の第52回で触れたように、今回の三菱の不正の根本原因は、身の丈に合わない経営が社内に生み出した歪みだと筆者は考えている。今回の提携で、三菱は背伸びをする必要がなくなった。経営資源を得意分野に集中し、足りない部分は日産に補ってもらえるのだから、研究開発活動は「集中と選択」ができるようになる。もちろん、開発体制や生産体制の再構築の過程で、リストラや拠点閉鎖などはあり得る。しかしそれは、今回のような不正がなくても、いずれ通らなければならなかった道だろう。

 3度も不正をしているのだから、これは三菱自動車の「体質」であり、付ける薬がないと評する向きがある。どんなに状況が厳しくても、やってはいけないことはやってはいけないのだと断ずる向きもある。しかし、筆者が会ったことのある三菱自動車のエンジニアは、誰もみな生真面目で仕事熱心な人ばかりだった。

 「チェック体制」の整備はもちろん大事だ。しかし、それをいくら整備しても、人がやっていることだから、抜け道はある。やはり、不正を生じさせている原因を取り除いてやらないと、根本的な解決にはならないと筆者は思う。今回の提携が、三菱自動車の、真の体質改革につながることを期待したい。

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ウェビナー開催、「なぜ世界はEVを選ぶのか」(全2回)

 日経ビジネスLIVEでは2人の専門家が世界のEV事情を解説するウェビナーシリーズ(全2回)を開催します。

 9月30日(金)19時からの第1回のテーマは「2035年、世界の新車6割がEVに 日本が『後進国』にならない条件」。10月14日(金)19時からの第2回のテーマは「欧州電池スタートアップのCTOが現地報告、巨大市場争奪の最前線」です。各ウェビナーでは視聴者の皆様からの質問をお受けし、モデレーターも交えて議論を深めていきます。ぜひ、ご参加ください。


■第1回:9月30日(金)19:00~20:00(予定)
テーマ:2035年、世界の新車6割がEVに 日本が「後進国」にならない条件
講師:ボストン コンサルティング グループ(BCG)マネージング・ディレクター&パートナー滝澤琢氏

■第2回:10月14日(金)19:00~20:00(予定)
テーマ:欧州電池スタートアップのCTOが現地報告、巨大市場争奪の最前線
講師:フレイル・バッテリー(ノルウェー)CTO(最高技術責任者)川口竜太氏


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主催:日経ビジネス
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