ボルボの最新SUV「XC40」。新世代プラットフォーム「CMA」を採用する最初のモデルだ
このところ、スウェーデン・ボルボ・カーズ(ボルボの乗用車部門)の躍進ぶりが目覚ましい。かつての同社の状況を思うと、まさに隔世の感がある。リーマン・ショック後の経営危機で、当時の親会社だった米フォード・モーターは不採算部門だったボルボ・カーズの売却を迫られ、2010年3月に中国浙江吉利控股集団(以下吉利)に売却する契約を締結した。それまでのボルボはフォードグループとエンジンやプラットフォームを共有していたが、この売却で、早急に独自開発のパワートレーンとプラットフォームを開発する必要に迫られた。
そこからパワートレーンとプラットフォームのすべてを刷新する110億ドル(1ドル=110円換算で1兆2100億円)の巨大プロジェクトを立ち上げ、プラットフォームを事実上2種類に集約、エンジンもガソリンとディーゼルの基本設計を統一し、モジュール設計とした4気筒に集約するという決断を下した(その後、この4気筒から1気筒減らした3気筒エンジンが派生した)。特にエンジンの4気筒以下への集約は、高級車メーカーであるボルボにとって大きな決断だったと思う。
高評価の新世代ボルボ
吉利がボルボを買収した当時、ボルボの再建がうまくいくかどうか懐疑的に見る向きも少なくなかった。ボルボは以前から高い安全性を売り物にしてきたメーカーだが、いまや世界のどのクルマも安全性が向上し、独自性を打ち出しにくくなっていたことがまずある。そもそもボルボは、吉利に買収された2010年の世界販売台数が40万台に満たない小規模メーカーに過ぎず、フォードグループの中でパワートレーンやプラットフォームを共有することで得てきたコスト削減効果がなくなるマイナス効果は大きいと見られていた。
さらにいえば、中国のメーカーが欧州のメーカーを買収するという初めてのケースで、うまく経営できるのかという懸念材料もあった。110億ドルもの投資を賭け(ギャンブル)と評する向きがあったのも無理はない。
しかし、ボルボ(そして吉利)は、この賭けに勝ちつつある。ボルボの2013年以降の業績は右肩上がりで、2017年の営業利益は、2016年の110億SEK(スウェーデン・クローナ、日本円で約1390億円)に対して27.7%増の141億SEK(約1912億円)となった。これは過去最高の数字だ。さらに世界販売台数も、過去最高の57万1577台となった。世界全体の年間販売台数は対前年比7.0%増で、特に中国での25.8%の販売台数増が大きく貢献している。新開発のプラットフォームやパワートレーンを搭載する新世代のボルボ車「XC90」や「S90」「V90」それに「XC60」はいずれも好調な販売を示している。
ボルボ・カーズの最近の業績。売上、利益、販売台数のいずれも伸びている(資料:ボルボ・カーズ)
このうち最高級ワゴン車のV90についてはこのコラムの第80回でも取り上げており、その高いボディ剛性に驚かされた記憶がある。中型SUV(多目的スポーツ車)のXC60は、2017~2018日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)に輝いた。日本のCOTYを海外メーカー車が獲得するのは2013~2014で独フォルクスワーゲンの「ゴルフ」が勝ち取って以来2度めで、ボルボ車では初めてだ。そして今回のこのコラムで紹介する最新SUVの「XC40」も、2018年の欧州COTYに輝いている。欧州COTYをボルボ車が受賞するのは初めての快挙だ。新世代のボルボ車が世界で高い評価を受けていることが分かる。
新世代プラットフォーム「CMA」を採用
今回XC40を取り上げたのは、このクルマが同社の新世代プラットフォーム「CMA(コンパクト・モジュラー・アーキテクチャー)」を採用する最初のモデルだからだ。これまでに登場したXC90やV90、S90、そしてXC60といった新世代ボルボはいずれも上級車向け最新プラットフォーム「SPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)」を採用していた。このSPAを採用するV90は、先ほども触れた通りこのコラムの第80回でも紹介しており、非常に高い剛性の車体がもたらす硬めだがすっきりした乗り心地と、スーパーチャージャーとターボチャージャーを両方組み合わせた排気量2.0L・4気筒エンジンがもたらす軽快な走りが印象的なモデルだった。
この上級車種向けのSPAに対して、今回XC40に採用された小型車向けのCMAは、当然のことではあるが、共通しているところと異なるところがある。まず共通する点からいうと、車体骨格の多くの部分にホットプレス鋼板を使用して、衝突安全性の確保と軽量化の両立を図っていることがある。鋼板は強度を高めていくと加工性が低下するという問題がある。これに対してホットプレス鋼板は、通常の強度の加工性の高い鋼板を加熱し、これを水冷した金型で成形することで“焼入れ”をして強度を上げたものだ。
XC40の車体を構成する鋼板の種類。赤い部分がホットプレス鋼板(写真:ボルボ・カーズ)
鋼板を加熱してから成形するので金型で加工しやすく、しかも強度は、通常の高強度の鋼板(いわゆる高張力鋼板)の場合には最高でも980MPa程度なのに対して、ホットプレス鋼板では1.5倍の1500MPaにまで高めることが可能だ。ただし、鋼板を加熱する設備や、金型を水冷する設備などが必要で設備コストがかかることや、鋼板を加熱する時間がかかるため生産性が低下するという難点がある。欧州ではこうした難点にある程度目をつぶって、軽量化のためにホットプレス鋼板の採用が拡大している。これに対して日本ではコスト上昇を嫌い、ホットプレス鋼板の採用は欧州ほどは広がっていない。XC40に採用されたCMAでは、比率は明らかになっていないものの、主要な骨格の多くにSPAと同様ホットプレス鋼板を多く採用している。
もう一つ、SPAとCMAで共通しているのがパワートレーンの電動化を最初から考慮していることだ。ハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)、さらには電気自動車(EV)ではバッテリーの置き場所が問題になるのだが、SPAやCMAではセンタートンネルの部分や後部座席の下にバッテリーを置くことを最初から想定して設計しており、同じプラットフォームからHEVやPHEV、さらにはEV仕様を派生させることが可能になっている。
新世代プラットフォーム「CMA」はエンジン車(上)だけでなく、プラグインハイブリッド車(中央)や電気自動車(下)など多様なパワートレーンに対応できる(写真:ボルボ・カーズ)
一方でSPAとCMAが大きく異なるのはサスペンション形式だ。SPAはフロントにダブルウィッシュボーン、リアにマルチリンク式を採用していた。特にリアサスペンションは、通常のコイルばねではなく、GFRP(ガラス繊維強化樹脂)製の板バネを使うことでフロアにばねの出っ張りをなくし、広い荷室を実現していたのが大きな特徴だった。これに対してCMAではフロントがシンプルなストラット式、リアもコイルばねを使った一般的なマルチリンク式を採用している。
新たなスカンジナビアンデザインを追求
SPAを採用する上級車種のXC90やXC60と、CMAを使うXC40では外観デザインの方向性も大きく異なる。伸びやかなプロポーションが特徴だったXC90やXC60(そしてV90やS90)に対して、XC40は最近では珍しい前傾したグリルやヘッドランプ、後端がリアピラーに向かって大きくはね上がったリアウインドー下端のラインなど、より活発で躍動的な印象を与えるデザインだ。ボルボによれば、XC40のデザインイメージは犬のブルドッグだそうで、そう言われてみれば、グリルの輪郭の形状が、犬が口を開けたところに見えなくもない。
XC40の内装の基本的なデザインは上級車種と共通で、センターパネルに縦長の大型液晶ディスプレイが据えられ、その両脇に空調の吹出口を配置していること、さらにボリューム感のあるインストルメントパネル形状なども上級車種と同じだ。しかしその細部に、上級車種よりも遊び心を感じさせるデザイン要素がちりばめられているのがXC40の特徴である。
その最たるものが、助手席前面にあしらわれたアルミのドット調の化粧パネルで、あまりクルマの内装では見られないものだ。また、ドアの内張りも、基本色は黒なのだが、物入れの内側にはオレンジ色の布地が張られ、大胆なコントラストをなしている。もっとも、今回試乗したのは「XC40 T5 R-Design 1st Edition」と呼ばれる300台限定のモデルで、一般的な車種はもう少しおとなしいデザインになるだろう。
大型のセンターパネルの両脇に空調の吹き出し口を配置したのは級車種と共通するが、助手席の前などにあしらわれたアルミのドット調の化粧パネル(左)や、オレンジ色のドア内張り(右)など、より遊び心を感じさせるデザインだ
V90を取り上げたこのコラムの第80回で、薄い板を曲げたようなセンターパネルのデザインなど、従来世代のボルボ車を特徴づけるデザイン要素がなくなったことを残念だと書いたが、ボルボ車は新世代のボルボ車で、新しい時代のスカンジナビアンデザインを追求しているようだ。
快適な乗り心地
先ほども触れたように、今回試乗したのはT5 R-Design 1st Editionという限定モデルで、20インチタイヤを履き、最高出力が185kW、最大トルク350Nmを発生する高出力仕様のエンジンを搭載する4輪駆動のスポーツ仕様だ。V90で硬めの乗り心地を経験したこともあり、ちょっと覚悟して乗り込んだのだが、いざ走り出してみるとその乗り心地は意外なほど良好で、20インチタイヤを履いていることを忘れさせるほどだった。最高出力が140kWで前輪駆動仕様のベーシックグレードは17インチタイヤが標準になるから、乗り心地はさらに期待できるだろう。
車体重量は1690kgだから、コンパクトSUVといっても決して軽くはないが、最高出力185kWのエンジンは、この車体を軽々と走らせる。最近のターボエンジンの例に漏れず、ターボラグは最小限なので、出力が足りないと思わされる場面は皆無といっていいはずだ。
V90の車体剛性があまりにも印象的だったので、XC40でも期待してしまったのだが、結論からいえば、V90のような、まるで分厚い鉄板でできた金庫のような車体剛性には及ばない。もちろん必要十分ではあるが、このセグメントの競合他車と比べて同等というところだろう。良好な乗り心地と、ある意味相反する点ではあるのだが、ステアリングを切ってから車両が向きを変え始めるまでの遅れは多少感じられ、R-Designというスポーツグレードであるにもかかわらず、それほど機敏な印象はなかった。
XC40の競合車種は、フォルクスワーゲンの「ティグアン」、独BMWの「X1」、マツダの「CX-5」など数多いが、この3車種の中でいうと足回りのセッティングはX1が一番スポーティで、その代わり乗り心地がある程度犠牲になっている。そしてその次がCX-5で、ティグアンが最も快適よりのセッティングだったのだが、XC40は、このティグアンとCX-5の間くらいという印象だった。
結論として、ボルボの最新SUVであり、初めての小型SUVでもあるXC40は、競合車種の多い激戦区にあって、快適な乗り心地や高い動力性能、遊び心を感じさせるインテリアで、独自の存在感を放っていると感じた。今後、新世代プラットフォームのCMAを使ってハッチバック車の「V40」や小型セダンの「S40」も登場してくるはずで、これらの出来にも期待が持てそうだ。
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