そこへいくとマツダは、会社の規模がそれほど大きくないという特徴を生かし、SKYACTIVの開発では、エンジン、ボディ、シャシーといった担当分野の枠を超えて車両の「全体最適」を追求するという経験を多くの技術者が積んだ。今回の開発も、そうした担当分野の枠を超えた発想が生み出したといえるだろう。

従来はシャシーとパワートレーンの制御は別々に開発されてきたが、今回の新技術ではエンジンとステアリングの制御を連携させるという新しい発想を取り入れた

SKYACTIVだからこそ

 後輪を操舵したり、旋回時の外輪を増速したりするのはそのための機構を追加しなければならないから、筆者だったら同じ効果を得るのに、前輪や後輪に軽くブレーキをかけることをまず考えるだろう。しかし、今回のエンジンを使う方法はブレーキを使うシステムよりも優れているという。

 その理由は、エンジンのほうがブレーキよりも応答が速いということだ。今回のシステムは、ステアリングを切り始めてから5ms(msは1000分の1秒)程度でエンジンの出力を絞るのだが、この応答は、ブレーキよりも一桁速いという。エンジンの場合、ディーゼルエンジンなら燃料の噴射量を減らす、ガソリンエンジンならスロットルバルブを戻す、あるいは点火時期を遅らせるなどの操作によって瞬時に出力を落とせるが、ブレーキの場合、油圧の立ち上がりや、ブレーキパッドがディスクをつかみに行くための遅れ時間があるからだ。ブレーキよりもエンジンのほうが応答が速いというのも筆者には意外だった。

 もっとも、これだけ高速の制御が可能なのは「SKYACTIVだからこそ」だと技術者は説明する。SKYACTIVエンジンでは、精緻なエンジン制御が必要なため、制御のスピードを従来の2倍に上げている。高速のエンジン制御という基盤があって、初めて今回の制御が可能になっているのだ。

 今回の技術をマツダは「G-Vectoring Control」と呼んでいる。「G」すなわち加速度や減速度によって「Vector」すなわちクルマの方向を制御する技術という意味だ。ただ、正直にいって、この名称は、一般の人には分かりにくいと思う。一方で、クルマに詳しい人から見ると、従来からある「トルクベクタリング」と呼ばれる技術とまぎらわしい感じがする。これは左右輪に加えるトルクを変えて、クルマの向きを変える力を発生させるもので、マツダの今回の技術とは原理が全く異なる。

 ネーミングに加え、ディーラーの店頭で、この技術をユーザーにどうアピールするかも課題だろう。このシステムのメリットは、システムの「オン」と「オフ」で乗り比べてみないと分からない。しかし、商品化の段階では「オフ」モードは搭載されないと予想される。かといって、すべてのディーラーで「搭載車」と「搭載していない旧型車」を用意して比較試乗をするというのも大変だ。

 だから、マツダの広報担当者には、一般の人にも分かりやすいように、運転がラクになるという意味を込めて「SKY楽TIV」というネーミングはどうですか? と提案したのだが、軽くスルーされてしまった。絶対にこっちのほうがいいと思うのだが…。