さて、ここからがこのシステムの核心なのだが、今回マツダが開発したシステムの仕組みはいたって簡単である。ドライバーがステアリングを切り始めると、前輪の摩擦力を増やしてやるのだ。すると、前輪で発生する操舵力が増し、クルマの向きを変える力が増加する。ステアリングの動きに対するクルマの応答性が向上するのはこのためだ。

 一方で、ステアリングを切り終えると、今度は後輪の荷重を増やすことによって、直進しようとする後輪の駆動力を増し、走行の安定性を向上させる。レーンチェンジ後にすっと車体のふらつきが収まるのは、車両の安定性が高まるからである。

コーナリングの始めはわずかに減速することで前輪荷重を増し、応答性を上げる。コーナリングが終了すると、わずかに加速することで後輪荷重を増し、安定性を上げる

エンジンの出力だけで制御

 今回のシステムの特徴は、この前輪および後輪の荷重を増すという操作を、エンジンの出力を制御するだけで実現していることだ。具体的には、ステアリングを切り始めると、素早くエンジンの出力を絞り、最大0.05G(1Gは重力加速度)というわずかな減速度を発生させる。これはつまり、軽くブレーキをかけているのと同じだから、クルマは前のめりになり、その分、前輪にかかる荷重が増える。この結果、前輪の摩擦力が増え、クルマの向きを変える力が強くなるという仕組みだ。

 もっとも、この0.05Gという減速度は、エンジンブレーキのさらに半分程度のわずかな減速だから、ドライバーや同乗者にはまず分からない。もちろん、前のめりになるといっても、感じ取れないくらいわずかな量である。それでいて、ステアリングを切ったときのクルマの応答は、はっきりと分かるくらい向上するのだから不思議だ。逆に、ステアリングの切り終わりでは、エンジンの出力をわずかに増す。今度はクルマが加速することになって、後輪の荷重が増えるから、後輪の摩擦力が強くなり、クルマの挙動を安定させる。

 最初にこれを聞いたとき、筆者はちょっと驚いた。というのも、クルマの操縦安定性を向上させようとする場合、まず考えるのはエンジンの制御ではなく、シャシー周りの制御だからだ。実際、クルマの操縦安定性を向上させる技術としては、後輪を操舵する、旋回しているクルマの外輪の駆動力を増す、あるいは内輪を軽く制動するなどの技術が従来から開発されてきた。

 この理由として、操縦安定性を向上させるのはシャシー技術者の担当という意識が強く、操縦安定性を向上させるのにエンジン制御を利用するという発想が従来生まれにくかったというのがまずある。別に縄張りがあるわけではないのだが、「エンジン」「ボディ」などといった担当分野の枠を超えての技術開発というのは、実は意外と難しい。技術的に高度かどうかという以前に、技術者の発想が、担当分野を超えて広がっていきにくいからだ。