もう1つが、多車種への展開を考慮したことである。今回クラリティFCでは、燃料電池と駆動モーターを合わせた大きさを、先ほど触れたようにV型6気筒エンジンに変速機を合わせたのとほぼ同じ大きさに抑えた。これはつまり、エンジンルームにV6エンジンが収まるクルマなら燃料電池を積めるようになったということだ。もちろん実際には高圧水素タンクやバッテリーも積まなければならないので、レイアウト変更は必要になるだろうが、専用車だけでなく通常のエンジン車にもFCVバージョンを展開しやすいレイアウトだといえるだろう。

PHVへの展開狙うホンダ

 ホンダとトヨタでは、車体設計に関する考え方も違う。燃料電池車専用の設計としたトヨタに対して、ホンダはクラリティFCのプラットフォームを他の環境車両にも応用する考えだ。すでに公表されているのは、PHV(プラグインハイブリッド車)への応用である。PHVは、パワートレーン自体は通常のハイブリッド車と共用が可能だ。

 実際、ホンダは2016年3月まで「アコード」をベースとした「アコードプラグインハイブリッド」をリース販売していたが、同車種は搭載しているバッテリーの容量以外は、通常のアコードハイブリッドと共通だった。しかし、通常のアコードハイブリッドの約4倍に当たる6.66kWhのバッテリーを搭載するために、トランクルームの奥行きが犠牲になっている。

 これに対してクラリティFCのプラットフォームをベースとしたPHVでは、後輪の間の高圧水素タンクを積んでいる部分にガソリンタンクを搭載する予定だ。ガソリンタンクは高圧水素タンクに比べてはるかに平たくできるので、奥行きの深いトランクルームが実現できる。アコードプラグインハイブリッドよりもずっと広くできるそうだ。

クラリティFCは、左右の後輪の間に大径の高圧水素タンクを積んでいる
クラリティFCは、左右の後輪の間に大径の高圧水素タンクを積んでいる

 バッテリーは、現在のクラリティFCで高圧水素タンクを積んでいる後席の床下や、バッテリーを積んでいる前席下に搭載する。プラットフォームだけでなく、車体のデザインも現在のクラリティFCに近いものになりそうだ。だとすると、燃料電池車にずっと使い続けてきた「FCX」という名称を今回外した狙いも見えてくる気がする。ここからは憶測だが、そのPHVの名称は「クラリティプラグインハイブリッド」になるのではないか。場合によっては、「クラリティEV」といったモデルもそろえ、クラリティを環境車の統一ブランドにするのかもしれない。

燃料電池の小型化はMIRAIと同レベル

 ネーミングに関する憶測はさておき、レイアウト的には正反対の選択をしたトヨタとホンダだが、どちらも最新のFCVだけあって、燃料電池の性能そのものはほぼ同等だ。燃料電池の性能を示す指標の一つは、単位体積あたりの出力(出力密度)である。これが高いほど、同じ出力なら燃料電池を小型化でき、レイアウト的に有利だ。

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