それに対して三菱は、規模が小さいメーカーであるにもかかわらず、ピックアップトラックや中型SUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)、小型セダンなど幅広い車種を展開しており、研究開発費用はそれぞれに薄く広く配分せざるを得ない。こう考えてくると、三菱が軽自動車に割ける研究開発費用は、実質的には競合他社の半分程度しかないかもしれない。「カネ」という実弾がなければ、いかに士気の高い軍隊といえども、勝負に勝つのは難しい。

No.1の座をすぐに奪回される現実

 それが如実に表れるのが、今回問題になった「燃費」である。燃費はある意味、企業の総合力が問われる指標である。エンジン技術だけでなく、変速機、車体設計、シャシー設計など、クルマのあらゆる部分が関連するからだ。今回問題になった三菱のeKワゴンの現行車種は、日産自動車が初めて企画から参加して開発された戦略車種であり、2013年6月に発売したときのJC08モード燃費29.2km/Lは、ハイトワゴンと呼ばれる背の高い軽ワゴン市場でNo.1の数値を誇った。逆にいえば、No.1を取れる開発目標を掲げ、これを達成することは至上命題であっただろう。

 ところがそのわずか1カ月後、No.1の称号は30.0km/Lを実現したスズキのワゴンRに奪取されてしまう。この数値にeKワゴンが追いついたのは、ようやくその1年後の2014年7月のことだった。ところがまたもやその1カ月後に、ワゴンRは「S-エネチャージ」と呼ぶ簡易型のハイブリッドシステムを搭載することで32.4km/Lというという高い値を実現、さらに2015年8月の部分改良ではこれを33.0km/Lまで延ばしてekワゴンを突き放す。ekワゴンがエンジンの改良で30.4km/Lにまで向上させたのはようやく2015年10月のことである。

 もちろん競合車種はスズキだけではない。ダイハツの競合車種である「ムーヴ」も、スズキのようなハイブリッドシステムなしに、31.0km/Lというekワゴンを上回る燃費を実現している。競合他社が急速に燃費を向上させていく中で、三菱の開発陣が、せめて競合他社に見劣りしない燃費の数値を実現するために、データの改ざんに手を染めたと考えることは想像に難くない。冒頭で「やり切れない」と書いたのは、そうした状況に追い込まれていったエンジニアたちの心境を考えたからだ。もちろん不正はあってはならない。それははっきりしている。しかし「カネ」も、そして恐らく「ヒト」も足りない状況の中で、競合他社と戦うことをエンジニアに強いた経営にこそ、最も重い責任が問われるべきだ。

 前回のこのコラムでも触れたことだが、富士重工業は2008年、苦渋の決断の末に、当時国内販売台数で約2/3を占めていた軽自動車事業からの撤退し、プラットフォームの種類を絞り込み、米国市場にフォーカスするという「選択と集中」によって、今日の健全な企業体質を作り上げることに成功した。今回の事件が示しているのは、もはや三菱自動車が現在の事業構造を維持するのは不可能だということだ。富士重工が軽自動車事業から撤退したのに匹敵する大胆な事業再構築が、待ったなしの状況になったといえるだろう。