一方、ウーバーの刑事責任を考えると、十分にドライバーを訓練していなかったり、あるいは、システムに欠陥があった場合などにはその可能性がある。ただしこれまでの判例を見ると、かなり悪質な例でないと刑事責任まで問われることは少ない。

 過去に死亡事故などで刑事訴追された例を見ると、三菱自動車のリコール隠しのように「欠陥が分かっていたのに隠蔽していた」というような悪質な例に限られている。タカタのエアバッグのリコールでも、当時の経営陣が米国で刑事訴追されているが、内容はやはり「欠陥が分かっていたのに隠蔽していた」というもので、技術的な欠陥そのものに対してではない。

 こうした過去の例から考えると、今回のウーバーの事故で、仮にシステムに不十分な点が発見され、そのために被害者を認識できなかったとしても、「欠陥があると分かっていたのに実験を続行した」「整備状況が不十分なのに放置していた」というような悪質な場合でなければ、刑事訴追までには至らない可能性が高い。

 つまり、過去の判例から類推する限り、今回の事件でウーバーに刑事責任を問うのが非常に難しいことが分かる。ウーバーに賠償責任はあるのの、刑事責任については、仮にシステムの欠陥が事故の原因であったとしても、先に説明したようにこれまでの判例を見ると「欠陥があるのを知りつつ隠蔽していた」というような悪質なケースでない限り問われない可能性が高いからだ。

 少なくとも日本の法規の下では、ウーバーよりもむしろ、ドライバーが刑事責任を問われる可能性が高いことに理不尽さを感じる読者もいるだろう。現在は自動運転システムが不完全なため、システムが対応できない状況になった場合などに備えて人間のドライバーが同乗している。しかし、仮に今回のようなケースでドライバーが前方を監視していたとしても、事故を防げたかどうかは疑問だ。

 そう考える第一の理由は、カメラ画像を見る限り、歩行者を発見してからブレーキをかけたのでは間に合わなかったと思われるからだ。また、仮にもっと手前から歩行者が見えていたとしても、ドライバーは「自分に歩行者が見えているのだからクルマにも見えているはず」と思ってブレーキをかけないかもしれない。ドライバーだけに「安全運転の義務」を押し付けるのは無理があるのだ。今回の事故は、各社の自動運転実験車両のドライバーたちを怖気づかせたことだろう。実際、トヨタ自動車は「オペレーターの心理状況に配慮して」、当面の間自動運転車の公道実験を中止すると発表した。

ではどうしたらいいのか?

 今回の事件は、人間の監視の限界を突きつけるとともに、「その自動運転車を路上で実験しても安全か」「監視ドライバーの訓練は十分か」といった安全性の確認体制が現状では不十分であることを示した。では今後、どうしたらいいのか。一つの解決策は、すでに様々な個人や機関から提案されている「自動運転車の免許証」を導入することだ。これは公道を走らせる自動運転車に、国家がシミュレーションによる自動運転プログラムの「バーチャルテスト」と、実験車両を使った「実技試験」を実施し、これに合格した車両だけを公道走行可能にするという構想だ。逆に、パスした車両は「国のお墨付き」を得たことになり、メーカーやドライバーは刑事的な責任は問わないことにする。

 こうすれば、粗悪なプログラムを搭載した車両が公道を走る危険を排除できる一方で、メーカーやドライバーは刑事的な責任から解放されることになり、安心して自動運転技術の開発に取り組める。ただ、言うは易く行うは難し。この「バーチャルテスト」や「実技試験」の具体的な中身を決めるのには相当な困難を伴う。そもそも、どういう試験をすれば安全か、という条件を決めることそのものが、自動運転車の開発と同じくらい技術的難易度が高いからだ。それでも、今後自動運転車が広く一般に普及するうえで、この「自動運転車の運転免許」の問題を避けては通れないだろう。

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ウェビナー開催、「なぜ世界はEVを選ぶのか」(全2回)

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 9月30日(金)19時からの第1回のテーマは「2035年、世界の新車6割がEVに 日本が『後進国』にならない条件」。10月14日(金)19時からの第2回のテーマは「欧州電池スタートアップのCTOが現地報告、巨大市場争奪の最前線」です。各ウェビナーでは視聴者の皆様からの質問をお受けし、モデレーターも交えて議論を深めていきます。ぜひ、ご参加ください。


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