ウーバーの実験車両に搭載されていた米ベロダインのLiDAR「HDL-64E」(写真:ベロダイン)
ウーバーの実験車両に搭載されていた米ベロダインのLiDAR「HDL-64E」(写真:ベロダイン)

 もちろん、歩行者が建物などの陰から突然飛び出してきたような状況だと、LiDARやミリ波レーダーでも検知は難しい。しかしテンピ警察署が公開した動画を見ると、歩行者は幅の広い道路を横切っているだけであり、自動運転車両と歩行者の間に遮るものは何もない。ウーバーの実験車両が搭載しているLiDARは、米ベロダインの「HDL-64E」という、自動運転用の実験車両で多く使われている高性能・高コストの製品である。天候などの条件にもよるが、公開されているスペックによれば最大で約120m離れた物体を検知できる。

 今回の事故は最高時速が40マイル(約64km)制限の道路で発生している。自動運転の実験車両はほぼ制限速度近くで走行しており、そのまま減速せずに歩行者に衝突したようだ。時速60kmで走行していた場合の停止に要する距離は37mと言われているが、この内訳は、空走距離(ドライバーが危険を発見しブレーキを踏んでからブレーキが効き始めるまでの距離)が17m、制動距離(実際にブレーキが効き始めてからクルマが停止するまでの距離)が20mである。危険を発見してからブレーキを踏むまでの反応速度は人間よりも自動運転車のほうが早いので、そのことを考慮に入れると、クルマが歩行者を発見してから停止するのに要する距離は40mほどだろう。

 今回公開された動画の長さは車両が歩行者に衝突するまでの約4秒間であり、その間の走行距離は、時速64kmと仮定すれば約71mとなる。仮にこの動画の始まった直後に実験車両がフル制動していたら十分停止できる距離であり、LiDARの検知距離の範囲にも十分入っていた。技術的には歩行者との衝突は避けられたはずだ。これらのことを考慮すると、「避けるのが難しかったようだ」とコメントすることはウーバーに落ち度がなかったように世論をミスリードする可能性がある。

 そしてまた、LiDARやミリ波レーダーを搭載していたのになぜ停止できなかったか、というのも不可解な点だ。センサーや、センサーデータの処理プログラム、あるいはそのデータを基にクルマの挙動を制御するプログラムに何らかの欠陥、もしくは不具合があった可能性が高い。

責任を問われるのは誰なのか

 では、仮にセンサーやプログラムに欠陥、もしくは不具合があった場合、ウーバーはどのような責任に問われるのだろうか。「もし日本で同様の事故が起きたら」という前提で考えてみよう。

 交通事故を起こした場合の責任には、大きく分けて「民事的責任」と「刑事的責任」、それに「行政責任」の三つがある。民事的な責任を果たすとは、簡単にいえば被害者に損害を賠償することであり、刑事的な責任を果たすとは、犯罪行為について国から処罰を受けることを指す。そして行政責任を果たすとは、「免許停止」「免許取り消し」といったような行政処分を受けることを指す。

 読者の皆さんの中で、自動車を運転する方は任意保険に加入していると思う。この保険の目的は、もちろん運転者や同乗者が負傷したときの治療費や入院費をまかなうため、車両が破損したときの修理費をまかなうため、という意味合いもあるが、主目的は万一交通事故の加害者になった場合の賠償責任を果たすためである。日本では、任意保険に加入していないドライバーが事故を起こした場合のために、すべての車両に自賠責保険の加入を義務付けている。

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