エンジン回転数を抑えて燃費向上

 これ以外にも、発進に歯車を採用したメリットはある。一つは「ワイドレンジ化」である。具体的には変速比の幅を従来のCVTの6.5から、今回は7.5に広げることができた。もう一つのメリットは、発進を歯車に任せることでCVT単体での変速比幅はむしろ小さくなり、プーリを小型にできたことだ。プーリの小型化と併せてベルトを狭角化することで、変速速度を20%向上させた。

低速側の駆動力伝達を歯車に任せることで、CVTは高速側に専念でき、変速機全体での変速比幅を従来CVTの6.5から7.5に広げた(上)、CVT自体の変速比幅は小さくなったのでプーリを小型・軽量にできた(下、資料:いずれもトヨタ自動車)
低速側の駆動力伝達を歯車に任せることで、CVTは高速側に専念でき、変速機全体での変速比幅を従来CVTの6.5から7.5に広げた(上)、CVT自体の変速比幅は小さくなったのでプーリを小型・軽量にできた(下、資料:いずれもトヨタ自動車)
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 発進時のギア比を低くできれば、そのぶん加速の出足を鋭くできるし、高速走行時のギア比をより高くできればそのぶんエンジン回転数を抑えることができて燃費向上につながる。つまりいいこと尽くめなのだが、機構的には難しい。CVTだけで変速比の幅を広げようとするとプーリを大きくするか、軸を細くする必要がある。前者はCVTの大型化につながるし、後者は軸の強度やベルトの構造上の限界がある。

 例えば、ホンダが米国仕様のアコードに搭載するCVTは、変速比幅をその前の世代のCVTの約5.5から約6.5に向上させた。このCVTは排気量2.0~2.4Lのエンジン向けで、変速比幅を拡大するために二つのプーリの中心間の距離を従来CVTの170mmから180mmに拡大し、プーリの径も拡大した。この結果、CVT自体は若干大型化した。

 CVTの大型化を避けつつ変速比幅を拡大する工夫として、CVTでは世界最大手のジヤトコが採用しているのが副変速機を採用することだ。これは、CVTの後段に変速機を設けることで、CVTの変速比幅を広げるという方式だ。具体的には、CVT自体の変速比幅は4.1程度に抑えてプーリを小型化しつつ、CVTの後ろに1速目の変速比を1.0、2速目の変速比を1.8とした副変速機を組み合わせた。この結果、変速機全体での変速比は約7.3と、その前の世代のCVTに比べて20%以上拡大しつつ、変速機の全長は10%短縮し、質量も13%軽くした。