ベルトで動力を伝達するCVT

 ここまでCVTという言葉を説明なしに使ってきてしまったが、ここでその機構について説明しておこう。CVTは二つのプーリの間に巻きかけたリング状の金属ベルトを使って動力を伝達する機構で、それぞれのプーリに巻きかける半径を変化させることで、無段階に変速比を変えることができる(CVTの動作についてはこの動画が分かりやすい)。通常のATよりも広い6.0~7.0程度の変速比幅を実現でき、しかも変速動作がないことから変速時にエンジンの回転数が上下せず無駄がないこと、変速比を自由に変えられるので走行条件に応じて最も適切な変速比を選べること、など燃費の向上に有利なことが、日本車で採用が増えている理由だ。日本市場では今や、前輪駆動車を中心としてCVTが自動変速機の主流になっている。

 一方で、CVTはプーリとベルトの間の滑り損失があることや、プーリと金属ベルトの間で適切な摩擦力を確保するためプーリをベルトに押し付ける力が必要で、そのための油圧を生み出すポンプでの駆動力損失が大きいといった難点もある。このため、高速で走行しているときには滑り損失が大きくなるし、エンジンの出力が大きくなると、プーリをベルトに押し付けるのに大きな油圧が必要になる。こうした理由から、走行する速度領域が日本よりも速い欧州や、大排気量のエンジンを積む車種が多い米国では、これまでCVTはあまり普及してこなかった。

発進は歯車で

 今回トヨタが開発した新型CVTはこうした「ダイレクト感に乏しい」「滑り損失やポンプの駆動力損失が大きい」といった難点を解消することを狙ったものだ。そのために、発進時にはベルトではなく歯車によって駆動力を伝達する世界で初めての機構を採用した。発進時はギヤ駆動とすることで、通常のAT(自動変速機)のようにエンジンの回転数の上昇とクルマの加速が連動するリニアな加速感が得られ、先ほどから説明しているようなラバーベルトフィールがないのが特徴だ。歯車駆動からベルト駆動への切り替えは、この動画に見るように、ある程度以上の速度になると、歯車を軸方向にずらして駆動力を切り、ベルト駆動に切り替える。

 発進時はベルトの滑りが大きい走行領域だが、ここで歯車を使うため滑りがなく駆動力損失も避けられる。速度領域が上がると歯車駆動からベルト駆動へとバトンタッチするわけだが、この「持ち替え」の制御にはAT技術で培った制御技術を応用したという。この「持ち替え」の制御には説明が必要だろう。通常ATでは、例えば1速から2速、2速から3速に切り替える際に、この持ち替え制御が発生する。なぜここが難しいかといえば、2速目と3速目を切れ目なく切り替えるのが難しいからだ。やや専門的になるのだが、従来はこの持ち替え制御をするのに、「1方向クラッチ(ワンウェイクラッチ)」という部品を使う場合が多かった。

 ワンウェイクラッチは、2速ギアで駆動力を伝えたまま3速へのギアの切り替えを可能にする機構で、滑らかな変速には不可欠な部品だった。しかし、最近ではATの小型化や軽量化のために、ワンウェイクラッチをなるべく省きたいというニーズが高まっている。このために、最近のATでは、変速比の異なる二つのギアの組み合わせに対して軸の回転数などを細かく制御することで、ワンウェイクラッチなしで持ち替え制御を可能とする技術が実用化されている。今回はこの制御を応用し、歯車駆動からベルト駆動に切り替える際にも変速ショックのない制御を実現したという。CVTは切り替えショックのないスムーズな変速が特徴の一つだから、そのメリットを殺さないように制御するのには相当気を遣っただろうと思う。

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