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 中国は、2025年までの自動車産業の育成計画として「自動車産業の中長期発展計画」を2017年4月に公表した。この計画では現在の中国を「自動車大国」ではあるがコア技術やブランド力はまだまだ弱いと分析している。これを10年間かけて技術力を向上させ、「自動車強国」に躍進させるとしている。

 そして自動車強国になるためのコア技術としてパワートレーン、変速機、カーエレクトロニクスといった従来からの技術に加えて、電池、モーターなどの分野で2020年に世界の先端レベルに達するように世界トップ10の新エネルギー車メーカーを数社育成すると表明している。つまり新エネルギー車政策をテコにして技術力・ブランド力でも世界一流の自動車強国へと発展させることを政策目標として掲げているのだ。EVは、環境問題解決の手段としてよりも、自動車産業を発展させるためのキーテクノロジーとしての意味合いが強い。

もともとは日本の技術

 CATLは、もともとはAmperex Technology(ATL)という香港のリチウムイオン電池メーカーが自動車用電池部門を別会社化したものであり、そのATLは、TDKが2005年に買収して電池生産子会社化したものだ。製造しているリチウムイオン電池も、TDKが開発したリチウムポリマー電池をベースにしている。つまり、CATLの電池技術は元をたどっていくとTDKに行き当たるわけだ。

 ただし、今回のLiang氏の講演を聞くと、同社が使っている技術はリチウムポリマー電池ではなく、正極に低ニッケル濃度の低い3元系材料(ニッケル、マンガン、コバルトの酸化物)、負極にグラファイトを用いるという標準的な構成のものだった。もっとも、中国の自動車用電池は、正極にリン酸鉄を使ったものが多いので、そういう意味では日本的な材料といえるかもしれない。

 ここから先はやや専門的になって恐縮なのだが、Liang氏の講演のテーマはこれからの電池材料トレンドということで、2020年ごろには、正極にニッケル濃度の高い3元系材料、負極にはグラファイトにシリコンを混合した材料を用いることで現在の電池よりも容量を1.3倍程度に高めることを目指す。

 さらに2025年にはマンガン・ニッケルの酸化物にリチウムの酸化物を混合した正極材料と、シリコン+グラファイトの負極を組み合わせることで、現在のリチウムイオン電池が4V程度などを5V程度に高電圧化してエネルギー密度を現在の1.6~1.7倍にまで向上させたい意向だ。電圧を5Vまで高めると現在使われている電解液は分解してしまうので、新たな組成の電解液が必要になるが、「どんな材料なのか?」という会場からの質問は「トップシークレットだ、それを言ったらクビになる」とユーモアを交えながらかわしていた。

 今回発表した材料系自体は特に目新しいものではなく、例えば先に紹介した5Vのリチウムイオン電池の考え方についても、日本ではすでに5年以上前から開発発表の例がある。トヨタ自動車が2020年代前半の実用化を目指していると言われる全固体電池についても、Liang氏の発表では実用化時期を2030年以降としており、発表を聞いた限りではあるが、日本はまだ5年程度はリードしているという印象を受けた。

 ただ中国は先に紹介したNEV政策の中で、中国製の電池を搭載していないNEVは事実上NEVとして認定しないと見られており、内外の完成車メーカーは中国国内の電池メーカーから電池を購入すべく、その選定を急いでいる。CATLは、日欧のメーカーが電池購入を検討する際の有力候補の一つで、大工場の建設も今後の需要増をにらんでのことだ。日欧の完成車メーカーとのやりとりを通して、その技術力は今後急速に高まっていくと考えられる。

 Liang氏とは休憩時間中に雑談する機会があったが、巨大電池メーカーの研究開発トップという堅苦しさは微塵もなく、米国のテネシー大学ノックスビル校を卒業し、米国のオークリッジ国立研究所の研究員を経てCATLに入社したという経歴の持ち主だけに、米国的な明るさを感じさせる親しみやすい人柄の人物だった。

 とはいえ、技術や経営など肝心な内容についてはさすがに口が重くなり、一筋縄ではいかないしたたかさも備えている。こういう優秀な人物に率いられているとすれば、キャッチアップは早いだろうという危機感をひしひしと感じた。それにしても、講演時間よりかなり前に控室に来たにもかかわらず、機材チェックや通訳との打ち合わせで忙殺されていたLiang氏は果たしてあの日、ランチにありつけたのだろうか。そのことが気になっている。