ついに軽も「マイルドハイブリッド」に

 もちろん、スズキも顔を増やすだけで厳しい競争を勝ち抜けるとは思っていない。新型ワゴンRの飛び道具の1つは「マイルドハイブリッド」だ。このコラムの第9回で触れたように、これまでスズキは軽自動車市場では「ハイブリッド」という名称を封印し、小型モーターとLiイオン電池で駆動力を補助するシステムを「S-エネチャージ」と呼んでいた。しかし、同様のシステムを小型車では「マイルドハイブリッド」と呼んでいるのに合わせ、今回の新型ワゴンRから、S-エネチャージという呼び方をやめて、マイルドハイブリッドという呼称で統一した。

 なので筆者はてっきり、呼び方の変更だけで、中身は従来と同じものかと思っていたのだが、これが違った。名称だけでなく、中身もちゃんと進化していたのである。具体的には、S-エネチャージに対して、モーター、電池とも大幅に強化した。従来のS-エネチャージではモーターの出力が1.6kWだったのが、今回は2.3kWと約1.4倍に、Liイオン電池の容量は36Whから120Whへと、3倍以上になった。

「s-エネチャージ用のモーターとリチウムイオン電池」(左)と新型ワゴンRから採用する「マイルドハイブリッド用のモーターとリチウムイオン電池」(右)。特にリチウムイオン電池が大型化していることが分かる
「s-エネチャージ用のモーターとリチウムイオン電池」(左)と新型ワゴンRから採用する「マイルドハイブリッド用のモーターとリチウムイオン電池」(右)。特にリチウムイオン電池が大型化していることが分かる

 これによって、従来は発進後の加速時に、エンジンの駆動力をモーターでアシストできる時間が6秒だったのが、今回は5倍の30秒間に延びた。従来は不可能だったモーターのみでクリープ走行する機能(最長10秒間)も追加した。これにより、JC08モード燃費は、従来モデルでS-エネチャージを搭載していた「FZ」(前輪駆動、CVT仕様)の33.0km/Lから、新型の同等グレードである「HYBRID FZ」(同)では33.4km/Lに向上した。これに対して、競合する「ムーヴ」は、最も燃費のいいグレードでも31.0km/Lにとどまる。

 そしてもう1つの飛び道具が、スイフトから採用を始めた自動ブレーキ機能「デュアルセンサーブレーキアシスト」である。このコラムの第72回で取り上げた新型ソリオまで、スズキはステレオカメラを使った自動ブレーキ機能「デュアルカメラブレーキアシスト」を搭載していたのだが、その後、スイフト、ワゴンRにはこちらのデュアルセンサーブレーキアシストを採用した。スイフトの回では触れられなかったのだが、この自動ブレーキ機能は、レーザーレーダーとカメラの2つのセンサーを組み合わせることで、車両だけでなく歩行者も検知する自動ブレーキ機能に加え、ハイビームアシスト(対向車や先行車がいると自動的にハイビームをロービームに切り替える機能)も実現している。ただし、ハイビームアシストを除けば、デュアルセンサーブレーキサポートとデュアルカメラブレーキサポートで実現できる機能に差はない。

 では実績のあるデュアルカメラブレーキサポートをやめ、デュアルセンサーブレーキサポート(紛らわしい名称を繰り返して申し訳ない)に切り替えたのはなぜなのか。これについても開発担当者の歯切れはあまり良くないのだが、2つの理由があるようだ。1つは、デュアルセンサーブレーキサポートのほうが、センサーがコンパクトなことである。2つのカメラを横に並べるデュアルカメラブレーキサポートは、カメラ同士の距離が、先行車両や歩行者との距離を測る精度に直結するため、むやみには詰められない。これに対して、デュアルセンサーブレーキサポートでは、カメラとレーザーレーダーを一体化したコンパクトなユニットを、ルームミラーの裏側に取り付ければ済む。

デュアルセンサーブレーキサポートのセンサーユニット。デュアルカメラブレーキサポートよりも、センサーを小型化できる
デュアルセンサーブレーキサポートのセンサーユニット。デュアルカメラブレーキサポートよりも、センサーを小型化できる

 そしてもう1つはコストだ。従来のデュアルカメラブレーキサポートに採用していたステレオカメラが日立オートモティブシステムズ製だったのに対して、今回のレーザーレーダーとカメラを一体化したセンサーは世界の大手サプライヤーである独コンチネンタル製である。トヨタ自動車やホンダも普及価格帯の車種向け自動ブレーキには同じコンチネンタル製のセンサーを使っており、量産効果でかなりの低コストを実現していると見られる。しかも、同じセンサーを使うトヨタやホンダのシステムでは、歩行者検知機能を実現していないことを考えると、同じセンサーでも使い方は現在のところスズキが一枚上手だ。

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