ミニヴェルファイア? ミニキャディラック?

新型ワゴンRのテールランプ(FXグレード)。テールゲートの下に配置された横長の形状が、初代ワゴンRを連想させるデザインだ
新型ワゴンRのテールランプ(FXグレード)。テールゲートの下に配置された横長の形状が、初代ワゴンRを連想させるデザインだ
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 このFZやスティングレーのデザインについては、ネット上でいろいろと議論が喧しい。FZの、ヘッドランプやグリルを上下二段重ねにしたフロント周りのデザインや、末広がりの形状でルーフとの境目を黒色に塗ったセンターピラーのデザインが、トヨタ自動車の上級ミニバン「ヴェルファイア」に似ているという意見がある。

 また、独立したグリルに、ボンネット上面まで回り込んだ縦長のヘッドランプを組み合わせたスティングレーのフロントデザインは、ヘッドランプ形状が米ゼネラル・モーターズ(GM)の高級SUV(多目的スポーツ車)「キャディラック・エスカレード」を思わせるとか、上下二分割したグリルのデザインは同じGM社のシボレーブランドの車種と類似性があると感じる読者もいるだろう。

 ただ、ヴェルファイアの上下二段重ねのフロントデザインは、そもそも日産自動車の上級ミニバン「エルグランド」との類似性が指摘されているし、センターピラーのデザインも、フランス・プジョー・シトロエンの「DS3」に先例がある。一部の中国車のような「丸パクリ」は論外としても、デザインの一部に類似性があるという例は、昔から枚挙に暇がない。だから、筆者個人としてはあまり目くじらを立てる必要はないと思っているが、この3つの顔の中で最も好ましいと思うのは、初代ワゴンRを思わせるFXのデザインだ。

幅の広いセンターピラーの裏側に設けられたアンブレラホルダー
幅の広いセンターピラーの裏側に設けられたアンブレラホルダー
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 スズキに言わせると、今回のデザインのポイントの一つはセンターピラーよりも前の「パーソナルスペース」とセンターピラーよりも後ろの「実用スペース」の融合にあるという。確かに、この幅広のセンターピラーのおかげで、ちょっとクーペ的な躍動感がサイドビューに出ていると感じられる。

 筆者が感心したのは、この幅の広いセンターピラーがデザインのためだけでなく、ちゃんと実用的なメリットも生み出していることだ。それが、このセンターピラーの室内側に設けられたアンブレラホルダーである。雨の日に、車内で傘の置き場所には困ることが多いのだが、このアンブレラホルダーは、傘を立てたまま収納できるので、非常に便利だ。デザインが多少気に入らなくても、この傘立ての便利さは、ユーザーになると手放せなくなる機能なのではないだろうか。

なぜ3つの顔を与えたのか

 知りたかったのは、なぜスズキが新型ワゴンRに3つの顔を与えたのかということである。開発担当者に“顔”を増やした理由を聞いても「多様なユーザーのニーズに応えるため」という歯切れの悪い答えしか返ってこない。しかし、2016年の軽自動車市場を見れば、スズキの抱える課題がはっきりする。

 2016年に最も販売台数の多かった軽自動車は、1位がホンダの「N-BOX」で、2位がダイハツの「タント」、3位が日産自動車の「デイズ」、4位がダイハツの「ムーヴ」だった。N-BOXとタントは、スズキの背高ワゴン車「スペーシア」の競合車種であり、デイズとムーヴはワゴンRの競合車種である。だからスペーシアとワゴンRが本来スズキでも売れ筋車種であるべきなのだが、2016年の販売実績でスペーシアは8位、ワゴンRは10位にとどまり、スズキで最も売れた軽自動車は、5位の「アルト」と、7位の「ハスラー」という結果だった。つまり、背高ワゴン系とワゴン系という売れ筋車種の強化が、スズキにとって喫緊の課題なのだ。

 じつは新型ワゴンRの発売に先立つ2016年12月には、スペーシアにも3つめの顔を持つ新車種「カスタムZ」を追加している。つまりワゴンRとスペーシアにおける「3つの顔作戦」は、ワゴン系と背高ワゴン系という軽自動車市場における2つの重要セグメントでスズキが仕掛けた、起死回生の策だということだ。

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