次のシーンでは老夫婦がEasy Rideの無人タクシーを呼び出し「海にドライブに行きたい」と告げると、クルマが「今日の天気ですと、湘南方面はいかがですか?」とリコメンドする。また次のシーンではピアノのレッスン帰りの小学生低学年の女の子2人が無人タクシーに乗り込み、車載タブレットを通じて母親と会話を交わす。この二つのシーンに共通するのは、運転に不安のある高齢者や、免許を持っていない子どもでも「移動の自由」を享受できるという自動運転車のメリットだ。

 そして最後のシーンでは、無人タクシーで仕事帰りに路地裏のケーキ店に立ち寄るビジネスマンが、自分が買い物を終える10分後に店の前に戻ってくるようクルマに指示する。周囲にクルマを停めるスペースがないからだ。こういう、駐車スペースのないところにクルマで移動するにも、無人タクシーは便利だ。

タクシーや地域と協調

 そしてもう一つ、今回の記者発表で印象的だったのが、タクシー業界や地域の商店など、既存の産業と協調していく姿勢を強調したことだ。まず地域の商店との協調については、今回の実証実験で周辺の一部の店舗にクーポンを提供してもらうなど、すでにスタートしているが、今後についても、ユーザーを直接店舗に連れてくるEasy Rideのサービスは「もともとリアルな店舗と相性がいい」(DeNAの執行役員でオートモーティブ事業部長の中島宏氏)として提携店舗と地域経済との連携をさらに拡大する方針だ。

 気になるのはタクシー業界との連携だ。ユーザーを希望の場所に運ぶという点で、Easy Rideのサービスはタクシーと競合するように見える。これに対して中島氏は発表の中で「競合するのではなく、補完関係を築く」と強調した。「地域交通の提供事業者は地域のニーズを把握しており、拠点網の確保や車両資産の活用という点でも提携は重要」(中島氏)と位置付けている。「より安心して利用してもらえるサービスを一緒に提供していきたい」(同)とも発言しており、地域交通の提供事業者と共同で今回のサービスを展開していくことを想定しているようだ。

 タクシー業界は現在、ドライバー不足という深刻な経営課題を抱えている。Easy Rideはそうした課題を補完的に解決できる可能性がある。こうした事情が、タクシー業界を連携へと向かわせているようだ。実際タクシー業界からの反応は悪くないという。既に神奈川県タクシー協会とは、お互いの強みをどう生かしていくのか、役割分担をどうしていくのかについて勉強会を開催しており、こうした活動を通して、お互いによい関係を築けるビジネスモデルを構築する意向だ。

 現在の日本は少子高齢化に伴う労働力不足がさまざまな分野で顕在化しつつある。例えばこれから年度末にかけて引っ越しシーズンを迎えるが、ことしは引越し業者が見つからなくて困っている人が多いという。こうした労働力不足は社会的課題であると同時に、社会的なニーズでもある。その意味で、日本はさまざまな分野で労働者との摩擦を回避しながら業務の自動化を進められる環境にあるともいえる。

 分野はまったく異なるが現在、機械学習や人工知能などの技術を活用してホワイトカラー業務を自動化・効率化するRPA(Robotic Process Automation)という手法が注目されているのも同じ文脈だろう。少子高齢化を「課題」とだけ捉えるのではなく「チャンス」と捉えて「自動化先進国」を目指すというのは一つのあるべき姿になるはずだ。

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