このような技術的な評価もさることながら、両社が重視しているのはサービスに対するユーザーの評価だ。乗車後に実施する一般モニター向けのアンケートでは、乗降時や乗車中の体験についての評価や周辺店舗と連動したサービスの利用状況、実用化した場合の想定利用価格などについて情報を収集する。得られた情報は、さらなるサービス開発や今後の実証実験に活用する予定である。
今回の実験で得られた結果や、ユーザーのアンケート調査をベースに、両社はこの実証実験終了後に無人運転環境でのサービスの検討や運行ルートの拡充、有人車両との混合交通下で最適に車両を配備ロジックや乗降フローの確立、多言語対応などの検証を進め、第2段階の限定環境サービスを実施し、2020年代早期の本格サービスの実施につなげる。
世界最先端の試み
全体として、今回の日産のEasy Rideの実証実験は、自動運転技術を活用した世界最先端の試みといえる。このコラムの第99回で、トヨタ自動車がことし1月に米国ラスベガスで開催された世界最大級のエレクトロニクス技術の見本市「CES 2018」で、サービス専用のEV「e-Pallete Concept」を発表したことをお伝えした。そしてこの車両がいくつもの点で非常に画期的な特徴を備えていることを指摘した。これに比べると、今回の日産とDeNAの発表は、車両そのものは既存のEVをベースにしたものでそれほど新規性はないのだが、サービスの設計そのものは極めて先進的だ。
トヨタのe-Palleteは、2020年に数台の試作車を作り、そこから実証実験を始める予定で、日産よりも実証実験の開始が2年遅れになる。クルマの開発では2年は短いが、IT業界における2年は長い。ユーザーの声を聞きながら2年早くサービスの開発・改良に取り組めるのは日産・DeNAの大きなアドバンテージといえるだろう。
また、世界を見回しても日産・DeNAの試みは世界最先端だと思う。自動運転技術そのものの水準でいえば、日産・DeNAを上回る例はある。すでに米グーグルは昨年11月からアリゾナ州フェニックス市で、運転席にドライバーのいない自動運転車の公道実験を開始しており、しかもこれに一般公募した地域の消費者モニターを乗せている。
走行できる範囲は市内全域で、単に短いコースを往復するだけの今回の日産・DeNAの実証実験よりも進んでいるといえる。ただし、グーグルの実証実験はあくまでも車両を走行させるだけであり、ユーザーの車内体験や地域社会との連携を含めたビジネスモデルの模索を始めているという点では日産・DeNAのほうが先を行っている。その考え方がよく表れているのがEasy Rideのコンセプトムービーだ。
このムービーには、自動運転技術を利用した移動サービス、いわば「無人タクシー」だからこそできるメリットが凝縮して盛り込まれている。例えば、冒頭は海外から日本に到着したカップルが無人タクシーに乗り込み、それぞれ英語とフランス語で行き先を告げると、それぞれの言語で答える。人間のタクシードライバーが多くの海外言語を習得するのは大変だが、クルマに搭載した人工知能なら多言語対応はたやすい。
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