このシステムで驚くのは価格の低さだ。イグニスの場合、このシステムはカーテンエアバッグや、フロントシートのサイドエアバッグとセットにした「セーフティパッケージ」として提供されるのだが、このパッケージの価格が9万円(税抜き)である。デュアルカメラブレーキサポート単独の価格は、5万円程度だろう。これは、同様にステレオカメラを使った富士重工業のドライバー支援システム「Eyesight(アイサイト)」の約半額である。
このコラムの第6回で、富士重工業の「レヴォーグ」に搭載された最新のアイサイト(Ver.3)について取り上げたときにも触れたのだが、他社の多くの自動ブレーキは、レーザーレーダーやミリ波レーダーで前方の障害物を検知する方式を採用している。これに単眼のカメラを組み合わせて、障害物が歩行者なのか、車両なのかを見分ける機能を備えたものもある。
これに対してステレオカメラは、人間が2つの眼で対象物との距離を見積もるように、「対象物が何なのか」だけでなく「対象物までの距離はどの程度か」も比較的精度よく検知できるのが特徴だ。先行車との相対速度が50km/hまで、あるいは歩行者との相対速度が30km/hまでなら衝突を回避できる機能を備える。ステレオカメラは、富士重工業にもステレオカメラを供給している日立オートモティブシステムズ製だ。これまでに富士重工業のステレオカメラを供給してきた経験が、今回のスズキ向けのカメラにも生きているようだ。
ステレオカメラを使った機能は自動ブレーキにとどまらない。カメラで車線を認識して逸脱しそうになると警告する車線逸脱警報システムや、操舵が不安定になり蛇行運転になると警告するシステムも備えている。富士重工業の最新のアイサイト(Ver.3)のように、高速道路でブレーキ、アクセルを操作しなくても先行車両に追従走行でき、ステアリング操作も、車線中央を走るように補助してくれるような機能は搭載していないが、約5万円のシステムとしてはかなり多彩な機能を備えた「お買い得」な装備といえる。
「無理のない走り」に好感
さて、実際に運転してみるとどうか。まず印象的なのが走り出しの軽快さだ。それほどアクセルを踏みこまなくても、車体がすっと前に出る感じがする。これは、新開発プラットフォームによって実現した850kgという軽い車両重量(HYBRID MG、2輪駆動仕様)が効いているのだろう。今回、試乗会の会場は御殿場だったのだが、そこから箱根へ登っていくときでも、出力が足りないと感じさせる場面はほとんどなかった。
乗り心地や車体剛性は、いずれも印象的というほど高いわけではないのだが、スポーティさを演出しようとして硬くし過ぎたり、あるいは乗り心地を重視しすぎて車両が左右に揺られたりということがなく、無理のない、自然な走りに好感を持った。走っているうちに、乗り心地のことや、車体剛性のことがだんだん気にならなくなってきて、走ることに集中できる。シートも、座った瞬間に、特にサポートがいいとか、あたりが柔らかいといった特徴はないのだが、ずっと運転していて気になることもない。こういうふうに、自然に運転できるクルマは、ありそうでなかなかない。
一方、マイルドハイブリッドという非常に簡易なシステムを搭載しているので、燃費という面ではさほど期待していなかったのだが、こちらはうれしい誤算があった。御殿場から箱根方面へ登って降りてくる約1時間の試乗で、燃費計の読みだが19.7km/Lという良好な値を記録したのである。それほど燃費に配慮して運転したつもりもないので、平地なら20km/L程度が期待できそうだ。「ハイブリッド」という名前に期待して購入しても、裏切られることはないだろう。
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