このうちマイクロハイブリッドは、アイドリングストップ機構に、減速時のエネルギー回生機構を組み合わせたもので、駆動力を補助する機能は持たない。バッテリーとオルタネーター(発電機)を少し改良するだけで済むのでコストは非常に安く上がるが、燃費向上効果は数%というところだ。いま販売されている新車のほとんどは、この機能を備えていると言っていいだろう。

 一方のフルハイブリッドは、大出力のモーターと大容量のバッテリーを積み、短い距離はバッテリーとモーターだけで走行する機能を備えているタイプを指す。トヨタ自動車の「プリウス」や「アクア」、ホンダの「フィットハイブリッド」や「アコードハイブリッド」はこのタイプだ。

 これに対して、マイルドハイブリッドというのはマイクロハイブリッドとフルハイブリッドの中間的なシステムで、出力10kW以下の比較的小型のモーターを積み、モーターとバッテリーだけで走行できる機能は備えていない。バッテリーの量もそれに見合って少なめにして、フルハイブリッドよりもシステムコストを下げているのが特徴だ。

 マイルドハイブリッドにもいくつか種類があり、例えば先代フィットハイブリッドに搭載されていたホンダの「IMA(インテグレーテッド・モーター・アシスト)」と呼ぶシステムは、出力10kWのモーター/発電機を、エンジンのクランク軸に直結してエンジン始動や、制動時のエネルギー回収、駆動力のアシストに使っていた。

 これに対し、今回スズキがイグニスに採用したシステムは、同じマイルドハイブリッドでもさらに簡易なタイプで、出力2.3kWのモーター/発電機に、小型のリチウムイオン電池を組み合わせたものだ。実はこの構成は、以前のこのコラムで紹介した「S-エネチャージ」と同じである。このモーター/発電機は、スターターモーターとオルタネーターの機能を兼ね備えており、ISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)と呼ばれる。これによってアイドリングストップ後のエンジンの再始動、制動時のエネルギー回収、駆動力のアシストをする。このISGは、ホンダのIMAと違ってクランク軸に直結されていない。通常のスターターやオルタネーターと同様に、エンジンのクランク軸とベルトでつながっている。駆動力のアシストも、このベルトを介してするわけだ。

イグニスに搭載されている1.2Lエンジン。右下に見えているのがISG
イグニスに搭載されている1.2Lエンジン。右下に見えているのがISG
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 軽自動車ではs-エネチャージと呼んでいたのと同じシステムを、なぜイグニスではマイルドハイブリッドと呼んでいるのか。じつは、S-エネチャージ搭載車を発売するときにも、当初スズキはマイルドハイブリッドの名称で売り出す計画だったようだ。カタログやパンフレットまで一部印刷済みだった。ところが発売直前に、他社から「こんな簡易なシステムをハイブリッドと呼んでいいのか」というクレームが入り、結局、S-エネチャージの商品名で売りだしたという経緯がある。

 一方で小型車の分野では、日産自動車も「セレナ」などに今回のマイルドハイブリッドと同様のシステムを「S-HYBRID」という名称で搭載している。このためスズキも、今回のイグニスや、その前に発売された新型「ソリオ」では、マイルドハイブリッドの名称で商品化しても問題ないと判断したのだろう。もっともスズキ自身はこうした経緯については口を閉ざし、「営業上の判断です」(スズキの広報担当者)と語るのみだが…。

5万円でステレオカメラが付く

 もう1つ、イグニスで注目されるのが「デュアルカメラブレーキサポート」と呼ぶドライバー支援システムだ。これは、フロントウインドー上部の室内側に取り付けたステレオカメラで先行車両や歩行者を検知して、もし衝突しそうになると自動的にブレーキをかけるシステムだ。同システムの搭載は、軽自動車「スペーシア」、小型車「ソリオ」、軽自動車「ハスラー」に次いで4車種目だ。

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